NIMH Bipolar Disorder Booklets -双極性障害クライエント用小冊子- (7)

NIMH Bipolar Disorder Bookletsの7回目です。

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児童・思春期にも双極性障害はありますか?

児童・思春期にも双極性障害は起こる可能性があります。両親がこの病気を持ってい場合、より起こりやすいことがわかっています。

それぞれのエピソードがはっきりと分かりやすい大人の双極性障害と異なり、児童・思春期の双極性障害では、一日の内で何回もうつ病と躁病を繰り返すような、非常に早い気分のスイングが見られることがあります6)。児童の躁病では、過剰にハッピーになったり機嫌が良くなるというよりも、イライラしたり、暴力的なかんしゃくを起こしやすいことが分かっています。また、混合性症状も若い双極性障害では比較的良く見られます。思春期も後期になり、病気も経過を重ねてくると、より典型的な大人のエピソードや症状を示すようになります。

児童・思春期の双極性障害では、この年代に起こってくるその他の様々な問題を同時に抱えていることがあります。例えば、イライラやアグレッシブさなどは双極性障害の症状でもありますが、同時に注意欠陥多動性障害(ADHD)や行為障害、反抗挑戦性障害、さらには大人でよく見られるような大うつ病性障害や統合失調症などの、ほかの精神疾患の症状でもあります。薬物乱用もそういった症状のひとつです。

しかしながら、どういった病気であれ適切な治療は適切な診断から始まります。情動や行動上の症状を持つ児童・思春期の子供たちは、精神保健の専門家による注意深い評価が必要です。また、自殺を考えている、自殺のことを話す、自殺を試みる児童・思春期の子供たちは、周囲が重大なことであるととらえ、精神保健の専門家の援助を直ちに受けるようにしてください。

*注意

もともとパブリックドメインで公開されている内容ですので、ご自由に利用していただいてかまいませんが、つたない翻訳ですし、翻訳の正確性は保証できませんので、そのあたりをご理解のうえでご使用ください。

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抗うつ薬使用の増加と自殺率の減少との関連について:デンマークでの地域住民を対象とした研究より

今回ご紹介する論文は、抗うつ薬の使用と自殺率との関連に関する研究結果です。処方箋ベースであれ、薬剤料ベースであれ、抗うつ薬の使用の増加は、自殺率の減少と相関しているという話を、聞いた事がある人がいらっしゃるかもしれません。一般に先進国では、近年自殺率は緩やかに減少傾向を示しており、抗うつ薬使用は増加を示しているという事ですが、それだけで相関があるとか無いとか言うのも、乱暴な話だと思い、あまりまじめにフォローしていませんでした。まあ、東ヨーロッパや、日本、韓国では、こういったトレンドは見られないわけですが、北米および西側ヨーロッパ、オーストラリアなどの国々には、だいたい当てはまっていたようです。

で、この研究では、デンマークの50歳以上の国民を対象に、死亡統計から自殺による死亡を抽出し、医療記録とヒモ付けをして、個人レベルでの抗うつ薬服用の有無と自殺との関連を調べ、本当に抗うつ薬の使用が自殺を減少させているのかどうかを検証しています。

Increased use of antidepressants and decreasing suicide rates: a population-based study using Danish register data.
J Epidemiol Community Health. 2008 May;62(5):448-54.

調査は、1996年1/1から2000年の12/31の5年間のデータで行われました。抗うつ薬に関しては、三環系抗うつ薬、SSRIそれ以外の抗うつ薬に分けて解析が行われています。また、抗うつ薬服用の基準としては、2回以上連続して処方箋が発行された場合としています。これは、十分期間抗うつ薬が投与されており、アドヘレンスもよかったと考えられた症例を抽出するためだそうです。具体的に解析に用いられた方法は、decomposition methodsと呼ばれる方法だそうです。

結果ですが、8805892人年が最終的に解析されました。5年間の調査期間で、2136の自殺が認められました。そのうち、男性で501人(35%)、女性で398人(56%)が最後の1年間に1剤以上の抗うつ薬を服用していました。

自殺率は、男性でそれぞれ100000人年あたり、TCA服用群で153.3、SSRI服用群で169.0、その他の抗うつ薬では273.2、無治療群で30.7でした。同様に女性では、TCA群で68.8、SSRI群で68.8、その他の抗うつ薬群で112.6、無治療群で11.0でした。

また、5年間で人年換算での抗うつ薬治療中の割合が、男性で2.4%から3.3%へ、女性で5.3%から7.0%に増えており、自殺率は、男性で100000対41.8から32.1へ、女性では16.7から13.0まで減少していました。

ここで、decomposition methodsを用いて、それぞれで認められた自殺率の減少に寄与している因子を解析しています。その結果、

  • 男性で認められた9.66ポイントの減少のうち、非服用群の寄与が-8.72であり、抗うつ薬投与群の寄与が-0.94でした。
  • 女性で認められた3.70ポイントの減少のうち、非服用群の寄与が-3.30であり、抗うつ薬投与群の寄与が-0.30でした。

実際は、これらの貢献率を、ここの抗うつ薬別に解析したり、治療効果と集団構成の変化に分けて解析したりしていますが、詳細は省略させていただきます。

で結論としては、

  • 確かに抗うつ薬は自殺率低下に寄与しているが、大きな貢献ではない。
  • 自殺率の減少には、抗うつ薬非服用群の何らかの因子が大きな貢献をしている

としています。

コメント

この話題に関連した論文は、かなりの数が公開されていますが、これ以外の論文を読んでいませんので、具体的にどの様な論理で、抗うつ薬の処方数の増加と自殺率の低下を関連づけていたのか分かりません。しかし、少なくとも私にとっては、ここでご紹介した論文の内容は非常に納得のいくものでした。実際に自殺をした個人レベルで抗うつ薬の使用状況を調査していますので、かなり説得力のあるデータだと思います。ただ、これで決着とはいかないでしょうから、これを機会に過去の論文にも目を通してみようかと思っています。

で、実際の自殺対策という視点で見た場合に、少なくとも欧米先進諸国では、抗うつ薬の処方を増やしていくだけでは、有効な対策とはなり得ないという事かと思います。日本では、そもそも元々認められるトレンドが異なっているので、日本なりの原因をきちんと調査した上での対策が必要なのでしょう。

現在のところ、日本の自殺対策では、うつ病の啓蒙と早期発見、早期治療が推進されているようです。理想を言えば、精神医学的な立場から、人々を自殺に向かわせない社会のあり方や仕組みについて、科学的に何らかの提案ができれば良いのでしょうが、まだまだ道は遠そうですね。

タグ : 大うつ病性障害 薬物療法 SSRI 抗うつ薬 三環系抗うつ薬 自殺

NIMH Bipolar Disorder Booklets -双極性障害クライエント用小冊子- (6)

NIMH Bipolar Disorder Bookletsの6回目です。

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双極性障害はどのような経過をたどりますか?

典型的には、躁病とうつ病エピソードを生涯に渡って繰り返します。それぞれのエピソードの間は、ほとんどの人で症状が無い期間がありますが、およそ3分の1の人で、いくらかの症状が残存しています。そして、ごくわずかですが、治療にもかかわらず慢性的に症状が続く人たちもいます。

躁病とうつ病のエピソードを繰り返す典型的なタイプを双極I型障害と呼びます。しかし、中には、重症の躁病エピソードを経験せず、その代わりにより軽症の軽躁病とうつ病を繰り返す人がいます。こういったタイプの双極性障害を、双極II型障害と呼んでいます。もし、12ヶ月の内に4回以上のエピソードを経験する場合には、ラピッドサイクリングの双極性障害と呼ばれています。なかには、1週間、あるいは1日のうちで、何回ものエピソードを経験するような人さえいます。ラピッドサイクリングは、病気の経過の中では比較的後になって起こりやすく、男性と比較すると女性に起こってきやすい傾向があります。

双極性障害に罹患していても、適切な治療を受けることによって、健康的で実りある人生を送ることができます(以下の「双極性障害の治療法にはどのようなものがありますか?」をご覧ください)。しかし、治療を受けなかった場合には、自然経過としては、悪化していくようです。時間の経過とともに、最初に症状が出始めたときと比較してより頻度が高く(よりラピッドサイクリングに)なり、そしてより重症の躁病もしくはうつ病エピソードを経験するようになります5)。しかし、たいていの場合は、適切な治療を受けることによって、エピソードの頻度や重症度を軽減することができ、質の高い生活を送ることができるようになります。

*注意

もともとパブリックドメインで公開されている内容ですので、ご自由に利用していただいてかまいませんが、つたない翻訳ですし、翻訳の正確性は保証できませんので、そのあたりをご理解のうえでご使用ください。

 

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思春期うつ病および小児破壊的行動障害に対する環境要因としての両親のうつ病に関する養子研究

妙に長ったらしいくどい題名になってしまいましたが、今回のエントリーは養子研究を用いて、両親のうつ病と思春期の精神障害の関連を調べた論文です。

An Adoption Study of Parental Depression as an Environmental Liability for Adolescent Depression and Childhood Disruptive Disorders
Am J Psychiatry 2008; 165:1148-1154

親、特に母親のうつ病は、児のうつ病のリスク要因になるのみならず、その他の精神疾患のリスク要因にもなる事が明らかにされています。ただし、これらが、遺伝的な要因によるものなのか、親がうつ病であるという環境的な要因によるものなのかは、明らかにされていませんでした。また、父親のうつ病が児の精神障害のリスク要因になるかどうかについては、いまだはっきりとした結論が出ていません。

そこで、筆者らは、the Sibling Interaction and Behavior Study (SIBS)のデータを用いて、親のうつ病と児の精神疾患のリスクについて、生物学的な親の場合と養父毋の場合で比較検討しました。

対象は、養子家族409と非養子208です。すべての家族から、11歳から20歳まで、5歳以上年が離れていない2兄弟姉妹を参加者として抽出しましたので、最終的には、養子群692例、非養子群416例となりました。

さて、実際に調べられた児の精神障害は、大うつ病性障害、外在化型障害(でいいのかな?以下の4つの障害をまとめた概念です)、反抗挑戦性障害、行為障害、ADHD、物質使用性障害です。それに加え、両親のうつ病の有無に関して別個に構造化面接を用いて評価されました。いずれの精神疾患も、既往も含めた罹患に関して調べられたようです。

まずは、児の背景情報です。2群間で児の年齢、性比については差を認めませんでしたが、人種構成に差が認められました。養子群の児は2/3がアジア人であったのに対して、非養子群では95.2%が白人で残りの4.8%もアジア人以外の人種でした。

結果ですが、それぞれの児の精神障害に関して、1)両親のいずれかがうつ病の既往を持つ場合、2)母親がうつ病の既往を持つ場合、3)父親がうつ病の既往を持つ場合の3つの場合にわけて、オッズ比が示されていました。

物質使用性障害に関しては、養子群、非養子群、両親のうつ病既往の有無に関わらず、統計学的に有意に高いオッズ比を認めませんでした。これは、対象となった児の年齢が、物質使用性障害に罹患しやすい年齢よりも低いためであると考察されていました。

で、細かいデータは省きますが、両親のいずれかがうつ病に罹患している場合には、物質使用性障害以外の児の精神障害について、オッズ比が1より高くなっていました。しかし、これを父親、母親別に見た場合、父親がうつ病罹患歴を持つ場合には、養子群で児のADHD罹患のオッズ比が1より高くなっているのみでしたが、母親がうつ病罹患歴を持つ場合には、養子群のADHDのみでオッズ比の上昇が統計学的に有意差を認めないのみで、その他の児の精神障害では、統計学的に有意に高いオッズ比を認めていました。また、養子群と非養子群での差は認められませんでしたが、非養子群でオッズ比が高い傾向が認められました。

ちょっと分かりにくいかもしれませんが、細かいところを無視して説明したいと思います。

  • 児の物質使用性障害については、両親のうつ病罹患の既往の有無に関わらずオッズ比は1を超えているとは言えない。ただし、これは今回対象となった児の年齢の影響が考えられる。
  • 父親のうつ病罹患歴は、児の精神疾患罹患のリスクを上げない。
  • 母親のうつ病罹患歴は、児のうつ病、外在型障害、反抗挑戦性障害、行為障害のリスクを養子群、非養子群いずれにおいても上げる。養子群、非養子群間での差は統計学的有意ではないが、非養子群でよりオッズ比が高い傾向を認める。

というものです。

コメント

養子群において、母親のうつ病罹患の既往が、児のある種の精神障害のリスクを上げるという事は、母親のうつ病罹患の既往という環境要因が児へ影響を与えれいる事を示しています。一方、オッズ比が非養子群で養子群より高い傾向が認められたという事は、遺伝的な要因の関与も示唆される結果でした。まあ、養子群、非養子群の違いに関しては、人種差の問題をこの研究ではクリアできませんので、何とも言えませんね。

また、この研究では、うつ病の既往と言う事が評価されており、実際に両親がうつ病に罹患していた時期に、児がその症状に暴露されているかどうかも気になるところですが、母親のうつ病の場合には87.4%で、その症状が児に暴露されていたとの事のようです。

この辺りの影響が、母親と父親の社会的な役割の違いから来る児との関係性の違いからきているのか、それとも人にはもともと母親からの影響を受けやすいような生物学的な何かが、遺伝子などにハードコーディングされているのか、など想像してみるといろいろと面白い問題を含んでいそうです。もし前者であれば、男性と女性の社会的役割が異なるような文化背景があれば、結果が異なってくると思われます。

いずれにしろ現状では、母親からの影響が強いことは事実のようです。しかし、社会的なサポートによりうつ病罹患のリスクを減らす事ができると思われますので、父親がしっかりと母親をサポートする事により、間接的に児の精神疾患罹患リスクを減少させる事ができるかもしれません。

タグ : 大うつ病性障害 母親 児への影響 ADHD 行為障害 物質使用性障害

NIMH Bipolar Disorder Booklets -双極性障害クライエント用小冊子- (5)

NIMH Bipolar Disorder Bookletsの5回目です。

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自殺

双極性障害を持つ人のなかには、自殺傾向を持つ人がいます。自殺を考えている人は、直ちに注意が必要です。そして、できれば、精神保健の専門家もしくは医師に相談しましょう。自殺について語るすべての人については、常に重大に考える必要があります。

自殺の危険性は、この病気の初期に高い傾向があります。ですから、はやく双極性障害であることを認識して、どのようにこの病気と付き合っていけば良いかを学ぶことによって、自殺のリスクを減らすことができるでしょう。

自殺の考えに伴うことが多い徴候や症状は、

  • 自殺したいとか、死を待ち望んでいると訴える
  • 何も良くならない、変わらない、という絶望感
  • 何も変えられないという、救いが無いという感覚
  • 家族や友人の重荷になっているという気持ち
  • アルコールや薬物の乱用
  • 身辺整理を始める(例:死にむけて金融関連の整理をしたり、財産を放棄したりする)
  • 遺書を書く
  • 危険な状況や、殺されるような危険な場所に身をおく

もしあなたが自殺を考えていたり、自殺を考えている人を知っているならば:

  • 医師、救急外来、911に電話して、すぐに助けを求めてください。
    (訳者注:日本では119番もしくは110番ですね。)
  • あなた、もしくは自殺を考えている人が、ひとりにならないようにしてください。
  • 大量の薬剤、武器もしくは自傷行為につかえるようなものが、手に届く範囲に無いようにしてください。

自殺には、時間をかけて周到に準備されたものもありますし、あまり考えるまもなく衝動的に行われるものもあります。ですから、上記ボックスの最後の項目は、双極性障害の人に対しては長期的に有効な方法だと考えられます。いずれにしろ、自殺の考えや自殺行動は、治療可能な病気の症状のひとつであるということを理解しておくことが重要です。適切な治療によって、自殺の考えを乗り切ることができます。

*注意

もともとパブリックドメインで公開されている内容ですので、ご自由に利用していただいてかまいませんが、つたない翻訳ですし、翻訳の正確性は保証できませんので、そのあたりをご理解のうえでご使用ください。

 

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NIMH Bipolar Disorder Booklets -双極性障害クライエント用小冊子- (4)

NIMHからパブリックドメインで公開されているクライエント用小冊子の日本語訳を続けています。今回は、その第4回目、双極性障害の症状に関する項目の最後です。

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双極性障害の症状には、どんなものがありますか?(の続き)

双極性障害の人々の訴えから、この病気でみられる様々な気分状態についての理解が得られるでしょう:

うつ病:どんなこともうまくできる自信がない。まるで、頭の働きが鈍くなってしまって、実際に何の役にも立たなく燃え尽きてしまったように、、、取り憑かれてるんだ、、、完全に絶望的で希望が無いんだ。他の人は、「それは一時的なものだよ。すぐに過ぎ去るさ。君なら乗り越えられるよ。」などというけど、みんな自分がどんな思いをしているのか分からないのさ、彼らはわかっていると思っているかもしれないけどね。感じたり、動いたり、考えたり、構っていられないなら、いったい何の意味があるんだい?

軽躁病:はじめに、ハイになった時は、それはすばらしい経験だよ。アイディアは次々に浮かび、、、まるで、明るく輝く星が現れるまでまっていて、それを打ち落とすような感じさ。恥ずかしさなんか消えてしまって、適切な言葉や動作は、つねにそこにあるんだ、、、興味が無かった人やものがものすごく面白くなる。性的欲求は広がり、誘惑したり、誘惑されたり、とめようが無くなる。信じられないような気楽さ、力、健康感、全能感、幸せな感覚がみなぎってくるよ。何でもできるんだ。でも、そんなことは、そう長くは続かない。

躁病:頭のめぐりがとんでもなく早くなり、そしてとてもたくさんの物事が浮かんでくる。圧倒的な混乱が明快さの変わりにやってくる、、、そして君はそれについていくのをやめちゃうんだ、記憶はどっかへ行ってしまう。つたわりやすかったユーモアは、もはや楽しくなく、友達はおびえ始める、、、すべてのことが性に合わなくなる。イライラして、怒っていて、おびえていて、コントロールができなくなり、身動きが取れなくなってしまう。

*注意

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NIMH Bipolar Disorder Booklets -双極性障害クライエント用小冊子- (3)

NIMHからパブリックドメインで公開されているBipolar Disorder Bookletsの3回目です。双極性障害の症状に関する項目の続きです。

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双極性障害の症状には、どんなものがありますか?(の続き)

軽度から中等度の躁病を軽躁病と呼びます。軽躁状態は、本人にとってはむしろ好ましい状態と感じられることがあり、社会的機能が上がったり、生産性が高くなることと関連していることがあります。ですから、家族や友達が、こういった気分スイングから双極性障害の可能性があると考えている場合でも、本人は何も問題が無いとい否認することがあります。しかし、適切な治療を受けなければ、軽躁病からより重症の躁病になってしまう場合もありますし、うつ病へとスイッチしてしまう可能性もあります。

時には、重症の躁病やうつ病では、精神病症状を伴うことがあります。よくみられる精神症状には、幻覚(幻聴、幻視、実際には存在しないものを感知する)、妄想(論理的でないもしくはその人が属する文化で通常説明できないような、強い確信を伴った誤った考え)があります。双極性障害でみられる精神病症状は、そのときの極端な気分状態を反映している傾向があります。例えば、躁病の時には、自分が大統領であるとか特別な力を持っているとか財産を持っているなどという古代的な妄想を持つことがあります。また、うつ病の時には、破産してしまっただとか、重大な犯罪を犯してしまったなどというような、罪や無価値感に基づく妄想を持つことがあります。こういった症状をもつ双極性障害の人は、時に統合失調症であるとか、その他の重症精神疾患と正しく診断されていないこともあります。

双極性障害におけるさまざまな気分状態を、ひとつのスペクトラムもしくは連続したもので捕らえると分かりやすいかもしれません。一方の端を重症のうつ病とすると、その上には中等度のうつ病があり、その上には、短期間であれば一般的に「ブルー」と呼ばれ、もし長引けば「気分変調症」と呼ばれる軽度の気分の落ち込みがあります。そして、その上に、正常な、もしくはバランスがとれた気分があり、その上に軽躁病(軽度から中等度の躁病)、そして重症の躁病があります。

(以下のパートは、上の図を説明したものです。本文には直接出てきませんので、おそらくアクセスシビリティの関連でPDFファイルから抽出されたテキストだと思われます。)

図では2つの矢印が示されている。一つは上向きに、もうひとつは下向きに描いてある。矢印にはラベルが付いており、「重症の躁病」が一番上に、以下順に「軽躁病(軽度から中等度の躁病)」が上半分のところに、「正常/バランスが取れた気分」がちょうど真ん中に、「軽度から中等度のうつ病」が下半分のところに、「重症のうつ病」が一番したに記載されている。

しかし、なかには躁病症状とうつ病症状が同時に起こる場合があり、混合性双極性状態(訳者注:混合性エピソードと呼ばれることが多いようです。)と呼んでいます。混合状態では、焦燥感、睡眠障害、食欲の変化、精神病症状、自殺に関する考えなどの症状が認められます。この状態に陥ってしまうと、とても悲しく、絶望的な気分でいるにもかかわらず、同時に極端に活動性が亢進しています。

双極性障害は、精神障害であるという以外にも、アルコールや薬物乱用、学業や仕事の不振、緊張した対人関係などの問題が見られることがあります。実は、そういった問題が出てくるということは、気分障害の徴候かも知れないのです。


双極性障害の診断

その他の精神障害と同様に、双極性障害は血液検査や脳画像検査などの理学的検査では、診断をつけることができません。双極性障害の診断は、症状、病気の経過、それに加えて、もし得られるのであれば家族歴をもちいて診断されます。双極性障害の診断基準は、「精神障害の診断と統計の手引き、第4版」3)に記載されています。


*注意

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NIMH Bipolar Disorder Booklets -双極性障害クライエント用小冊子- (2)

NIMHからクライエント用のブックレットがパブリックドメインで公開されています。ここ最近は、このブックレットを順に翻訳していっています。今回は2回目、うつ病エピソードと躁病エピソードの具体的な症状についての説明です。

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双極性障害の症状には、どんなものがありますか?

双極性障害は、著しい気分の変動を来たします。時にイライラを伴う過剰に"ハイ"な気分から、悲しく絶望的な気分まで、そしてそれが再びゆり戻したりしますが、通常はふつうの気分状態がそれらの二つの気分の間で訪れます。"ハイ"だったり"落ち込んだ"気分の時期を、それぞれ躁病エピソード、うつ病エピソードと呼んでいます。

躁病(躁病エピソード)の症状には

  • エネルギー、活動性が更新し、落ち着きがなくなる
  • 異常に"ハイ"で、妙に機嫌が良く、多幸的な気分
  • 極端なイライラ
  • 考えが頭の中を駆け巡ったり、非常に早口になったり、考えが次々に飛んでいく
  • 気が散りやすく、集中が困難
  • 眠る必要がなくなる
  • 自分の能力に見合わない非現実的な考え
  • 判断力の低下
  • 浪費
  • 普段とは違った行動を続ける
  • 性的活動の増加
  • 薬剤の乱用、とくにコカイン、アルコール、睡眠薬など
  • 挑発的で、でしゃばった、アグレッシブな行動
  • すべてを間違っているとして拒否する

躁病エピソードは、気分の高揚を伴った3つ以上の症状が、一日中、ほとんど毎日、1週間以上続く場合に診断されます。もし、(気分の高揚が認められず)イライラだけが認められた場合には、加えて4つ以上の症状が必要です。

うつ病(うつ病エピソード)の症状には

  • 持続する悲しみ、不安、空虚感
  • 絶望感、悲観的な考え
  • 罪悪感、無価値感、絶望感
  • 以前は楽しめていたことに対する興味や喜びの消失(セックスを含む)
  • エネルギーの減少、疲労感、活力が衰える
  • 集中困難、記憶力減少、決断困難
  • 落ち着かない、もしくはイライラ
  • 過眠もしくは、不眠 
  • 食欲の変化、意図しない体重減少もしくは増加
  • 慢性疼痛、もしくは怪我や病気によらない持続する身体症状
  • 死や自殺、自殺方法に関する考え

うつ病エピソードは、これらの症状のうち5つ以上が、一日中ほとんど毎日2週間以上にわたって続く場合に診断できます。

*注意

もともとパブリックドメインで公開されている内容ですので、ご自由に利用していただいてかまいませんが、つたない翻訳ですし、内容が正確とは限りませんので、そのあたりをご理解のうえでご使用ください。

 

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NIMH Bipolar Disorder Booklets -双極性障害クライエント用小冊子- (1)

今回のエントリーは論文を離れまして、NIMHからパブリックドメインとして公開されているBipolar Disorder Bookletsに関するものです。クライエント用に非常に分かりやすく記載されていましたので、いつものように少しずつ日本語に翻訳していこうと思います。もともとパブリックドメインで公開されている内容ですので、ご自由に利用していただいてかまいませんが、つたない翻訳ですし、内容が正確とは限りませんので、そのあたりをご理解のうえでご使用ください。

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はじめに

躁うつ病としても知られている双極性障害は、その人の気分、エネルギーや社会的機能などを異常に変化させる脳の障害です。通常みられるような気分の高揚や落ち込みと異なり、双極性障害の症状は重篤で、対人関係を壊してしまったり、仕事や学業が滞ったり、時には自殺にさえいたることがあります。しかし、良いニュースもあります。双極性障害は治療可能なのです。そして、この障害を負ってしまっても、充実した実りある生活を送ることができます。

アメリカ人成人のうち2百万人以上1)、もしくは、毎年18才以上の人口のおよそ1%が2)、双極性障害に罹患しています。双極性障害は、典型的には、思春期後期もしくは若年成人で発症します。しかし、子供の頃から症状が出現していたり、高齢になってから発症してくる人もいます。双極性障害は、よく病気として認識されていないことがあり、きちんとした診断がついて治療が開始されるまでに、何年間もかかることがあります。糖尿病や心疾患と同じように、双極性障害も慢性に経過する病気ですので、その人の人生に渡って注意深い病気の管理が必要です。

躁うつは気分や考えをゆがめ、ひどい態度を煽ったり、理性的な思考を破壊したり、そして、頻繁に生きる意志や希望を失わせる。生物的な問題から起こってくる病気だけれども、心理的な病気だと感じられる。喜びや強みをあたえてくれるユニークな病気でもあり、とても耐えられないような苦痛を運んでくる病気でもあり、そして、決して低くない頻度で自殺をもたらす病気でもある。

"私は幸いなことに、この病気のせいで死んではいない。幸いなことに、利用可能な最高の医療を受けている。そして、幸いなことに、友達、仲間たち、家族がいるのだ。"

Kay Redfield Jamison, Ph.D., An Unquiet Mind, 1995, p. 6.
(Reprinted with permission from Alfred A. Knopf, a division of Random House, Inc.)

 

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双極性スペクトラム障害のためのスクリーニング質問紙の開発と妥当性検証:The Mood Disorder Questionnaire

今回のエントリーは、ちょっと古い論文からです。双極性障害と大うつ病性障害の違いは、過去に躁病もしくは軽躁病エピソードを経験した事があるか否かですが、臨床的にこの両者をはっきりと区別する事は、実はあまり容易な事ではありません。最終的に双極性障害と診断されたクライエントの69%は、少なくとも1回は以前に異なる診断を受けており、そのうちで最も頻度が高い疾患が大うつ病性障害であると報告されています1)。本日ご紹介する論文は、双極性障害と大うつ病性障害の鑑別に利用可能な自己記入式の質問紙についての短報です。

Development and validation of a screening instrument for bipolar spectrum disorder: the Mood Disorder Questionnaire.
Am J Psychiatry. 2000 Nov;157(11):1873-5.

この質問紙、Mood Disorderとうたっていますが、躁病および軽躁病エピソードの既往歴を調べるための質問になっています。13項目の質問に「はい」または「いいえ」で答え(質問1)、それらの症状が同一時期に存在したかどうかの質問(質問2)と、それによって日常生活がどの程度障害されたのか(質問3)、の質問からなっています。

双極性スペクトラム障害という概念は、場合によっては非常に広い意味で使われたりしますが、ここでは、双極I型、II型、気分循環症、特定不能の双極性障害をまとめた概念として取り扱われていました。

で、何をしたかというと、クリニックに通院しているクライエントに、質問紙に答えてもらって、あとで電話でSCIDインタビューを行い診断を確定。これら2つのデータから、双極性スペクトラム障害と診断するための、カットオフポイントを算出しています。

結果ですが、198症例がSCIDインタビューを受け、55%にあたる109症例が双極性スペクトル障害と診断されました。質問2に「はい」と答え、質問3に「ある程度の問題」もしくは、「重大な問題」と答えた場合の質問1の「はい」の個数と、実際に双極性スペクトラム障害と診断されたクライエントの割合の関係を見てみたところ、7項目以上をカットオフポイントとすると、感度0.73、特異度0.90でもっともバランスのよい値を示しました。

簡単に感度と特異度の説明をしますと、この質問紙を用いる事により、10人の双極性スペクトル障害クライアントがいれば、そのうち約7人を見つける事ができるということが、感度が0.73という意味です。また、10人の双極性スペクトル障害でない人がいれば、そのうち9人はこの質問紙により双極性スペクトラム障害でないと除外できるという意味です。

コメント

双極性障害と単極性の大うつ病性障害を見分ける方法として、いろいろなものが提案されています。いずれにしろ、注意深く病歴をたどっていくしか無いのですが、こういった質問紙があると、診断の助けになるのはもちろんのこと、クライエントにとっても、具体的に症状やその重症度を知る上で、いい目安になるのではないでしょうか?

ということで、海賊版の日本語訳を作成しました。ご自由にお使いいただいて構いませんが、つたない翻訳ですし正確に訳しているとは限りませんので、あくまで参考程度とお考えください。誤字脱字にお気づきの際は、ご連絡いただければ助かります。

参考文献

  1. Perceptions and impact of bipolar disorder: how far have we really come? Results of the national depressive and manic-depressive association 2000 survey of individuals with bipolar disorder.
    J Clin Psychiatry. 2003 Feb;64(2):161-74.

タグ : 双極性障害 大うつ病性障害

TMAPブログエントリー一覧

このブログで読み進めてきたTMAP関連論文の一覧リストです。今後、読み進めるとともに、このリストに追加していこうと思っています。

  1. The Texas Medication Algorithm Project (TMAP)
  2. Texas Medication Algorithm Project:定義、薬物療法アルゴリズム作成の考え方、方法(1)
  3. Texas Medication Algorithm Project:定義、薬物療法アルゴリズム作成の考え方、方法(2)
  4. Texas Medication Algorithm Project:定義、薬物療法アルゴリズム作成の考え方、方法(3)
  5. Texas Medication Algorithm Project:定義、薬物療法アルゴリズム作成の考え方、方法(4)
  6. 大うつ病性障害治療のコンセンサスガイドライン(1)
  7. 大うつ病性障害治療のコンセンサスガイドライン(2)
  8. 大うつ病性障害治療のコンセンサスガイドライン(3)
  9. テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(1)
  10. テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(2)
  11. テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(3)
  12. テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(4)
  13. テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(5)
  14. テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(6)
  15. テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(7)

タグ : 大うつ病性障害 TMAP 薬物療法 三環系抗うつ薬 SSRI SNRI リチウム 抗精神病薬 ECT

テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(7)

さて、今回のエントリーから、精神病症状を伴う大うつ病性障害のアルゴリズムをご説明していきます。毎回繰り返し記載していますが、これはあくまで1999年に発表された内容である事に注意してください。現在のTIMAのアルゴリズムはこれらとは多少異なる部分もあります。この辺りは、もし今後このシリーズを続けていけたらご説明する機会もあるかもしれません。

The Texas Medication Algorithm Project: report of the Texas Consensus Conference Panel on Medication Treatment of Major Depressive Disorder.
Crismon ML, Trivedi M, Pigott TA, Rush AJ, Hirschfeld RM, Kahn DA, DeBattista C, Nelson JC, Nierenberg AA, Sackeim HA, Thase ME.
J Clin Psychiatry. 1999 Mar;60(3):142-56

精神病性の特徴を伴う大うつ病性障害治療アルゴリズム

急性期の治療

Stage1

このアルゴリズムを開始する以前に、適切な診断とベースラインの評価が必要である。

  • 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン、クロミプラミン、デシプラミン、イミプラミン、ノルトリプチリン) + 抗精神病薬 [レベルA]
  • SSRIもしくはベンラファキシン + 抗精神病薬 [レベルB, C]
  • アモキサピン [レベルA, B]

精神病性うつ病に対しては、抗うつ薬と抗精神病薬の組み合わせは、それぞれの単剤治療と比較して有効性が高い。もし、重篤な一般身体疾患を伴っている場合には、抗精神病薬から投与を開始し、数日後に副作用を見ながら抗うつ薬を追加するのが良い。併用療法を行う際に考慮すべき項目は、

  • 耐用性
  • 安全性
  • 用量調節の必要性
  • クライエントのアドへヘレンス
  • 薬剤相互作用の可能性
  • クライエントの年齢
  • 一般身体疾患の状態
  • 薬剤選択の好み

である。

三環系抗うつ薬が唯一、一つ以上のランダム化コントロール研究でその有効性が実証されている薬剤である[レベルA]。SSRIおよびベンラファキシンも、より好ましい副作用プロファイルからファーストラインに含めてもよいと考えられる[レベルC]。また、アモキサピン単独投与も精神病性うつ病に有効である事がランダム化コントロール試験で示されている[レベルB]。

中、高力価高精神病薬が、起立性低血圧の頻度が低い事、心電図変化が少ない事、抗コリン作用が少ない事から、推奨される。この会議が開かれた時点で、第二世代抗精神病薬としてはリスペリドンとクロザピンのみが発売されていたが、使用経験が限定されていたために、特に言及しない方針とした。しかし、錐体外路系副作用が少ない事を考えると、有効性が認められるのではないかと考えられる。

もし、より迅速な臨床効果の発現が必要であったり、以前にECTが有効であった既往がある場合には、直接Stage3にすすむ事を考慮すべきである。

Stage2

  1. Stage1の治療でうつ症状の改善が認められない場合
    • Stage1で三環系抗うつ薬を服用していた場合は、ベンラファキシン+抗精神病薬、もしくはStage3を考慮する
    • Stage1でSSRIを服用していた場合は、三環系抗うつ薬+抗精神病薬を考慮する
    • Stage1でアモキサピンを服用していた場合、三環系抗うつ薬+抗精神病薬を考慮する
  2. Stage1の治療でうつ症状の改善が認められなかった原因が、副作用による耐用性であった場合
    他の副作用プロファイルを持つ、異なった種類の抗うつ薬にスイッチ。
    もし2剤以上の抗うつ薬に耐用性が認められなかった場合には、Stage3を考慮

もし、より迅速な臨床効果の発現が必要であったり、過去にECTが有効であった既往がある場合には、Stage2をスキップしてStage3を考慮すべきである。

Stage3

Stage3の治療法はECTである。ECTについては、非精神病性うつ病のプロトコールに準ずる。一般的には、ECT開始前に、抗うつ薬および抗精神病薬は中止する。

ECTを行う事に同意が得られなかったり、ECTが無効であった場合にはStage4にすすむ。

Stage4

Stage4では、リチウムのオーグメンテーション+抗精神病薬の組み合わせが考慮される。リチウムのオーグメンテーションを開始する以前に、抗うつ薬および抗精神病薬の用量調節を行っておく必要がある。もし、三環系抗うつ薬に耐用性があるならば、抗うつ薬としては三環系抗うつ薬を用いるべきである。

治療戦略

精神病性うつ病の治療戦略は、非精神病性うつ病のものとほとんど同じである。

Weeks 1-3

用量
三環系抗うつ薬の用量調節は、血中濃度が通常の治療域になるように、なるべく急いで行うべきである。通常用量を変更して血中濃度が一定になるのに5日間かかる。

アモキサピンは用量反応関係を持つため、用量調節が必須であり、少なくとも一日用量200mg以上となるように調節すべきである。

抗精神病薬の初期投与量は、ハロペリドールで5-10mg、ペルフェナジンで24-36mgを参考にする。

Week 4

  1. 最初の治療に反応(症状が50%以上)を認めた場合は、その段階の治療を継続する
  2. うつ症状が部分反応(25-49%)であった場合には、2-4週間現在の処方を継続する。
    また、改善の速度が遅く、副作用も認めない場合には、耐用性がある限り抗うつ薬を増量する
  3. 4週間経っても、うつ症状の改善が25%以下の場合、現在の治療を継続しても50%以上の有効性を得る事は困難であると考えられる。
    用量を増加する事で有効性を高くする可能性がある。三環系抗うつ薬では、血中濃度をモニタすべきである。
    ノルトリプリチンには治療有効域があるため、血中濃度がそこに入るように調節する。
    精神病症状が残存していた場合には、この段階で少量の抗精神病薬増量を考慮する。
    1. 4週目に治療反応性が良くなく、しかもクライエントの耐用性がある場合には、抗うつ薬を増加して、さらに2-4週間経過を見る。
    2. 抗うつ薬に対する耐用性がない場合には、次の段階に進む

Week 6

  1. 症状が50%以上改善を示していた場合には、その段階の治療を継続
  2. 部分反応であった場合には、
    1. 4週時点で抗うつ薬を増量しており、それにより良好な治療反応が認められている場合には、さらに2週間経過を見る。
    2. 症状の改善速度が思わしくないがクライエントに耐用性がある場合には、抗うつ薬の増量を考慮しさらに2週間様子を見る。
  3. 25%以下の反応であった場合には、
    1. 4週時点で抗うつ薬が通常の最大容量に達していた場合には、次のステージへすすむ。
    2. 4週時点で抗うつ薬の最大容量に足しておらず、クライエントも十分に現在の抗うつ薬治療に耐用性がある場合には、通常の最大容量まで増量する。(三環系抗うつ薬であれば血中濃度を基準に判断する)
    3. クライエントが抗うつ薬に耐用性がなければ、次の段階に進む。

Week 8

  1. 症状の50%以上改善を認めた場合には、その治療を継続する
  2. 部分反応であった場合には
    1. 高用量の抗うつ薬に十分耐用性がある場合には、さらに2週間治療を継続する
    2. 抗うつ薬に耐用性がなければ、次の段階にすすむ
  3. 25%以下の反応もしくは、無効であった場合には次の段階にすすむ

Week 10

8週時点で部分反応であったクライエントのみが、ここまで到達すると考えられる。10週時点で、クライエントは、抗精神病薬と高用量抗うつ薬を服用しているはずである。

  1. 10週時点で50%以上の改善を認める場合は、治療を継続する。
  2. もし、部分反応しか認めない場合には、次の段階に進む

継続療法

非精神病性うつ病の継続療法と同様に、抗うつ薬治療は継続すべきである。抗精神病薬継続の是非については、体系的な研究はないが、1-2ヶ月継続した後、少しずつ減量していくのが良いと考えられる。三環系抗うつ薬を服用している場合には、抗精神病薬中止後、血中濃度をモニターし用量調節を行うべきである。

急性期治療としてECTが選択されたクライエントでは、非精神病性うつ病のECT後の継続療法と同様の治療を行うべきである。

維持療法

非精神病性うつ病の維持療法と同様の維持療法を行う。

今日のコメント

かなり時間がかかりましたが、今回で1999年のコンセンサス会議で決められたアルゴリズムについての説明を終わります。その後、特に第2世代抗精神病薬によるオーグメンテーションの有効性が確立してきたり、さらにはSSRI, SNRIの有効性に関する更なる報告が積み重ねられたりしたために、現在のTIMAアルゴリズムは、これらとは若干異なるものになっています。今後読み進めていく論文は、おそらくこのアルゴリズムを使って得られた治療成績になると思うのですが、今の状況と比較してみると、この10年間に発達してきた薬物療法戦略がどのように治療成績に影響を与えてきたかを知ることができるのではないでしょうか?現在のTIMAのアルゴリズムは、英語ですが本家サイトからダウンロード可能です。以下にリンクをはっておきます。

最近日本のグループから、フルボキサミンで用量反応関係が得られたと報告がありましたが、一般にSSRIは用量反応関係が認められないと言われています。ベンラファキシンに関しては、若干高用量にすると治療効果も上がるという事が、臨床的に示されているようですが、そういった意味では、SSRI、SNRIはそのクライエントの耐用性の範囲内で、一般的最大投与量までもっていって、最低4週間待った後に治療効果を判断する必要がありそうです。一方、三環系抗うつ薬は、用量反応関係がある場合が多く、血中濃度を測定しながら、用量を調節する必要がある言われていますね。この点だけでも、日本で行われているうつ病に対する薬物療法よりも、きめが細かい管理をしている気がします。

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双極性障害に対する長期抗うつ薬治療:リスクとベネフィットに関するメタ解析

双極性障害に対する薬物治療戦略において、抗うつ薬の使用の是非については、いまだ結論が出ていない問題の一つです。しかし、実際の臨床においては、長期間、抗うつ薬が投与されている症例をよく見かけます。今回ご紹介する論文は、双極性障害に対する抗うつ投与に関連したメタ解析です。(アブストラクトから簡単にご紹介します。)

Long-term antidepressant treatment in bipolar disorder: meta-analyses of benefits and risks.
Acta Psychiatr Scand. 2008 Aug 24.

このメタ解析では、双極性障害に対して6ヶ月以上、抗うつ薬+/-気分安定薬もしくはプラセボ+/-気分安定薬を投与しているランダム化コントロール研究を解析し、新たなうつ病エピソードおよび躁病エピソードのリスクについて評価しました。

12の対照群を含む7つの研究がピックアップされ、350症例の双極性障害症例が含まれていました。

  • 抗うつ薬を含む長期薬物療法は、気分安定薬のみ、もしくは無治療(プラセボの事でしょうか?)と比較して、27%新たなうつ病エピソードのリスクを減少させた。
    (RR = 0.73; 95% CI 0.55-0.97; NNT = 11)
  • 一方、新たな躁病エピソードのリスクは72%大きかった。
    (RR = 1.72; 95% CI 1.23-2.41; NNH = 7)
  • 気分安定薬単独投与と比較した場合、気分安定薬と抗うつ薬併用療法は、うつ病に対する予防的な効果も認めず(RR = 0.84; 95% CI 0.56-1.27; NNT = 16)、躁病エピソードのリスク増加も示さなかった(RR = 1.37; 95% CI 0.81-2.33; NNH = 16)。

コメント

後半の結論は、STEP-BD(NEMJ論文)で得られた結論と同じものですね。以前のNEMJ論文エントリーで、双極性障害に対しては抗うつ薬は水みたいな薬という事かもしれないとコメントしていましたが、この論文の前半の結果を見ると、一概にそうとも言えないかもしれません。同じくSTEP-BDから、自己報告による気分スイッチのリスクと抗うつ薬投与の関連を詳しく見た論文があります。この論文をご紹介したときに、NEMJ論文と矛盾する結論の様にコメントしていたのですが、どうやら今回ご紹介した論文で言うところの前半部分に相当する解析になりそうですので、必ずしも矛盾するものではなかったようです。気分スイッチのリスクから考えると、ベンラファキシンが有利な結果が出ていたと思います。

で、実際問題として、気分安定薬との併用以外に抗うつ薬をどのように使ってるんだという疑問があるのですが、単剤で使用してハイリスク・ハイリターンとなっているのか?それとも、第2世代抗精神病薬との併用でリスクを減らして、好ましい効果だけ期待できるようになるのか?いずれにしろ、もうすこしデータが必要なようです。

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パキスタン非都市部における地域ヘルスワーカーによる母親のうつ病に対する認知行動療法的介入試験:クラスターランダム化コンとロール試験

今回のエントリーはLancetからです。この号のLancetではアルマ・アタ宣言に関連して、低中所得国でのプライマリーヘルスケアに関連した論文が多数掲載されていました。この論文は、パキスタンからの報告です。

Cognitive behaviour therapy-based intervention by community health workers for mothers with depression and their infants in rural Pakistan: a cluster-randomised controlled trial
The Lancet 2008; 372:902-909

パキスタンは、湾岸戦争以後時々ニュースでお目にかかるようになりましたが、人口は1億3000万人、世界第6位だそうです(Wikipediaを見ると2005年に1億6000万人を超えていますね)。低所得国にあたり、国民あたりの年間所得が$500以下で、人口の33%が貧困ライン以下の生活をしています。乳児死亡率は1000出生に対して80(ちなみに日本の乳児死亡率は平成15年で1000出生に対して3.0です、日本の昭和20年のレベルですね)で、5歳以下の子供の1/3以上が発育不全にあります。医療保健に費やされた費用は年間予算の0.7%でした(2000-2001)。精神科医は350人で、精神科病床は3000。そのほとんどが都市部にあり、人口の67%が住む非都市部には専門的な精神保健サービスはほとんど存在していないという事です。

以上の様な状況の中で、筆者らはThinking Healthy Programmeという認知行動療法を基礎においた介入プログラムを立ち上げ、地域のプライマリーヘルスワーカーを核に、母子保健への介入を行っています。

デザインはクラスターランダム化研究です。パキスタンの最小行政単位であるUnion Councilごとにサービスが提供されたのですが、これらを介入群と対照群にそれぞれ20Councilごと無作為に割り当てられました。対象は、16-45歳で妊娠第3期にうつ病と診断された既婚女性です。主要評価項目は、6ヶ月および12ヶ月時点での児の身長・体重です。二次的評価項目として、母親のうつ病が評価されました。

結果ですが、最終的に割り当てられた症例数は、介入群が463例、対照群が440例でした。分娩後6ヶ月の時点で大うつ病性障害の診断基準を満たした母親の人数は、介入群で97例(23%)、対照群で211例(53%)であり統計学的な有意差を認めました(adjusted odds ratio 0.22, p<0.0001)。また、これらの効果は12ヶ月の時点でも持続していました。一方、6ヶ月および12ヶ月時点での児の身長・体重については統計学的な違いを認めませんでした。しかし、介入群で児の下痢の頻度が少なかったり、予防接種率が高かったり、母親が避妊している率(乳児死亡を減らすには、次の子供を妊娠するまで適切な間隔をあける事が必要)が高い、などの違いが認められました。

コメント

以前にアメリカで一般地域住民を対象とした妊娠・出産前後における精神疾患の頻度についての報告をご紹介していたと思います。アメリカでも、出産後は有意に大うつ病性障害の有病率が上昇しており、さらにこれらの期間に精神疾患を持っていると診断された女性のほとんどが専門的なメンタルヘルスケアアービスを利用していないという結果でした。つまり、これらの時期には包括的な公衆衛生的アプローチでの介入が必要なのだろうと漠然と考えていたのですが、これらをまさに実証する研究ではないでしょうか?

おそらく妊娠・授乳中の女性を対象とした試験でしたので、精神療法、それも最も実績がある認知行動療法ベースの介入が選択されたのだと思われますが、相対的に薬剤コストが高い事、および人件費が安い事もこういったアプローチが選択された理由の一つであるような気がします。日本では薬剤コストに比較すると人件費の方が高くつく事、形の無いものには診療報酬がつきにくい事などから、逆にこういった精神療法的介入の方が得る事が難しかったりしますね。

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思春期双極性障害に対するFFT(Family-Focused Treatment: 家族療法?)

生物学的な話が続きましたので、少し臨床に近い論文をご紹介しましょう。

Family-Focused Treatment for Adolescents With Bipolar Disorder
Results of a 2-Year Randomized Trial
Arch Gen Psychiatry. 2008;65(9):1053-1061.

成人の双極性障害では、認知行動療法をはじめ、対人関係社会リズム療法や今回ご紹介するFFTを、薬物療法と併用する事により、治療効果が上がる事が分かってきていますが、小児・思春期のクライエントに対する、これらの精神療法の有効性に関する報告はあまり多くありません。この論文では、FFT-A: Family Focused Treatment - Adolescentsを薬物療法と併用した際の有効性について調べられています。

対象は、12歳以上18歳未満の双極性障害クライエントで、参加者はプロトコールに基づいた薬物療法に加え、ランダムにFFT-A群とEnhanced care(EC)群に割り当てられ、2年間経過観察されました。

具体的なFFT-Aの内容ですが、

  1. 本人および親に対して、症状・原因・小児の双極性障害の経過・再発の要因などについて一般的な理解を促す
  2. 現在行われている薬物療法に対するアドヘレンスを促す
  3. 家族が早期介入の原則に理解を示した場合には、再発の徴候が認められた際の再発予防訓練
  4. セッションの後半は、ロールプレイなどを用いて、コミュニケーション能力の改善を目的としたトレーニング

などが行われました。一方、Enhanced careでは、週1回、合計3回の心理教育を中心としたセッションが行われたようです。

症状評価は、

  • the adolescent Longitudinal Interval Follow-up Evaluation
  • K-SADS DRS (Depression Rating Scale)
  • K-SADS MRS (Mania Rating Scale)

を用いて行われ、各気分エピソードの回復までの時間、再発までの時間、気分エピソードであった総週数、回復していた総週数、気分症状の重症度スコア、を主要評価項目としています。

最終的な参加症例数は58症例で、平均年齢14.5歳、双極I型障害が35例、II型障害が6例、NOSが14例でした。そのうち30症例がFFT-A群に、28症例がEC群に無作為に割り付けられました。背景情報に特に2群間で有意差を認めませんでしたし、また、2年間の試験を完了できた症例数は、いずれの群でも60%程度で、両群で差を認めませんでした。

さて、結果ですが、

  • 完全寛解率は2群間で差を認めなかった。なんと、両群あわせて91.4%!
  • 完全寛解までにかかる時間も両群間で差を認めなかった。両群あわせて19.8週
  • うつ病エピソードからの回復率は、FFT-A群で高く、回復までにかかった時間もEC群と比較して短かった。(10.2週に対して14.1週)
  • 躁病エピソードから回復するまでにかかった時間も、FFT-A群でより良い傾向が認められたが、統計学的な有意差までは認められなかった。
  • 完全寛解を認めた53例中、2年間で再発を認めた症例は26症例。うつ病エピソード20例、躁病エピソード12例、軽躁病エピソード3例。
  • 再発までの平均期間は62.4週で、FFT-A群、EC群で差を認めなかった。
  • 2年間のうち気分障害エピソードを認めなかったトータルの期間には、両群間で差を認めなかったが、FFT-A群で、よりうつ病症状を認めなかった期間が長かった。
  • 全体的に、FFT-A群で、抑うつ症状に関してより好ましい経過をたどっていた。

コメント

ちょっと分かりにくい論文でしたが、小児・思春期の双極性障害症例で、心理社会的治療法の有効性を見たランダム化コントロール試験は、この論文がはじめてのようです。(と、筆者らが言っていました。)で、FFT-Aは、うつ病エピソードからの回復期間を短縮し、全体で見た場合に、うつ病症状を認めない期間を増やす効果がありそうです。大人の症例が中心でしたが、以前にご紹介したSTEP-BDからの論文も似たような結果だったと思います。

大うつ病性障害では、心理社会的治療は、もちろん急性期にも有効ですが、再発予防効果も認められたと思います。もし、双極性障害でも再発気分障害エピソードを予防する効果が認められれば、クライエントにとって非常に重要な意味を持ってくると思われ、個人的にはそこにこそ心理社会的療法が効くのではないかと思っていたので、これらの結果には正直少しがっかりしました。ただし、この論文にしろSTEP-BDにしろ、通常の心理教育やコラボレイティブ・ケアが対照群に設定されていますので、いずれにしろ日本で得られる日常診療よりも手厚い心理社会的サポートを受けた上での対象群である事に注意が必要だと思います。

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双極性障害に関する脳画像研究のメタ解析、データベース、メタ回帰分析

今回のエントリーは、脳画像研究のメタ解析です。最近はfunctionalMRI(fMRI)などで非侵襲的にある程度の機能まで見る事ができるようになってきており、脳機能画像研究と呼ばれる事が多いのですが、この論文でまとめられているのは、古典的な画像解析の結果です。

Meta-analysis, database, and meta-regression of 98 structural imaging studies in bipolar disorder.
Arch Gen Psychiatry. 2008 Sep;65(9):1017-32.

まず始めに、簡単に脳画像検査についてご説明しましょう。現在ほとんどの研究はMRIを用いたものになっています。大きくは構造を見る研究と機能を見る研究に分けられます。で、構造を見る研究は、1)ROI(region of interest)を設定して、その領域の変化を見る場合、2)voxel-based morphometry(VBM)、3)diffusion tensor image(DTI)などがあります。ROIを設定する方法が最も古典的な方法ですが、いわゆる専門家が画像を見ながら特定の構造をトレースして、その領域の変化を見る方法で、ROIの設定そのものに恣意的な要素が入りうるのが欠点です。VBMは、撮影したMRI画像から3次元構築し、voxelといわれる小領域に分けた後に、各領域を変形して標準とされる脳にフィットさせます。そのときに必要な変形量から、どの程度元の画像が変形していたかを計算する方法で、恣意的にROIを設定する必要がない事、およびたくさんの症例を統計学的に解析しやすい事などが利点として挙げられます。DTIはこれらとは少し異なっており、白質の繊維連絡を追う事ができます。つまり、各皮質領域間のマクロでの繊維連絡の情報を得る事ができるのです。実際に、最近この技術を使って、サルの皮質間での連絡を網羅的に調べた論文が出ています。脳機能を画像的にとらえるには、1)PET・SPECTなどを用いて糖代謝や血流、特定の受容体やトランスポータへのリガンドの結合を見る方法、2)fMRIといって、特定の課題を与えた際の血流量の変化をMRIでとらえる方法などがあります。いろいろな疾患で障害されていると思われる認知課題を考えだし、その課題を与えた場合に活動している脳の領域を症例と対照で比較するというのがオーソドックスな方法のようです。

長い長い前置きでしたが、いよいよ本題に入ります。この論文では、1)最も古典的な構造の変化をみた論文を集めデータベースを構築、2)それらを用いてメタ解析を行っています。具体的には1978-2007年までに発表された論文の中から、CTもしくはMRIを用いて双極性障害と対照群で脳構造の変化を報告した論文を検索しました。1471の論文を拾い上げ、その中から筆者らの基準を満たした141論文からデータベースを構築し、98論文をメタ解析に用いました。ここで作成されたデータベースは、

こちらのサイトで公開されています。作りは凝っていますが、なんとエクセルファイルですよ。てか、よく見たらgoogle sitesでサイトを作ってますね。

さて、メタ解析の結果ですが、健常対照群との比較では、様々な候補領域が出てきていますが、多重比較の補正をBonferroni correctionで行うと、

  • 側脳室(全体が大きい
  • 側脳室(MRIが大きい
  • 側脳室(CTが大きい
  • 右側脳室が大きい
  • 第3脳室が大きい
  • 脳梁(横断面積)が小さい

以上で統計学的な有意差を認めました。また、MRIの信号強度を見てみると、

  • 全体での高信号
  • 深部白質の高信号
  • 皮質下灰白質の高信号
  • 右半球および左半球での高信号
  • 前頭葉の高信号
  • 頭頂葉の高信号

で高いオッズ比を認めました。

最後に、統合失調症の同様の報告と比較していました。双極性障害では有意に左右の海馬が大きいという所見を認めましたが、これらはパブリケーションバイアスを認めました。

コメント

久しぶりの長大なエントリーになりましたが、すべての情報は上記BiNDサイトで確認できるようになっています。興味をお持ちの方は一度覗いてみてはいかがでしょうか?

画像研究は、通常一つの報告辺りの症例数が遺伝研究などと比較すると極端に少ない事が多いようです。で、脳は非常に複雑な構造をしていますから、たくさんの領域に分けて解析をしようとすると、多重比較の問題が出てきて、統計学的に十分なパワーが得られない事が多いのかもしれません。となると、こういったメタ解析が重要になってくるのですが、ふたを開けてみると、構造変化は側脳室と脳梁だけという、何だか寂しい結果になってしまいました。

おそらく、VBMやfMRIのデータの方がメタ解析にのせやすいような気がしますので、そのうちこれらのメタ解析が報告されるのではないかと期待しているところです。さらに、DTIのデータから、マクロレベルでの皮質の繊維結合データが出てくると、グラフ理論などを背景として、解剖学的な結合と機能と構造がうまく融合され、双極性障害の病態理解がいっそうすすんでくるのではないかと、密かに期待しています。既に個々の研究では、十分なデータが蓄積しつつありますので、後はそれをまとめあげる方法論と政治力の問題のような気もしますが、、、。

こういった情報は確かに神経科学という視点で見ると、非常に興味深いもので、やっとここまで分かってきた、というよりもいま分かりつつあるという、現在進行形のものをリアルタイムで追っていけるのは、幸せな事でもあるのですが、臨床の視点からこれらの情報をどのようにクライエントに還元できるかと考えると、診断や治療効果の判定にこういった客観的な指標を導入する事により、より詳細な生物学的なマネージメントができる可能性があるのかな、と思ったりしました。

タグ : 双極性障害 画像研究 メタ解析

父親の高年齢化と双極性障害

今回ご紹介する論文は、父親の高年齢化と子供の双極性障害発症リスクに関連した話題です。

Advancing Paternal Age and Bipolar Disorder
Arch Gen Psychiatry. 2008;65(9):1034-1040.

高齢の父親から生まれた子供は、統合失調症や自閉症スペクトルなどの神経発達疾患のリスクが高いことが分かっています。この論文では、スウェーデンの一般住民を対象とした疫学データを用いて、症例対象研究のデザインで、両親の年齢と子供の双極性障害発症リスクに関して解析しています。

対象はSwedish national registerに登録されていた7,739,202例で、そのうち411,102例が両親の情報が得られていなかったために除外されました。双極性障害エピソードは、Hospital Discharge Registerと記載されていましたので、退院時の診断名が体系的に収集されており、それを用いて決定したようです。その結果、0.3%にあたる23,278例が生物学的な両親がはっきりしており、かつ少なくとも1回以上双極性障害と診断されていました。さらに、その中からより双極性障害の診断を確実にするために、2回以上双極性障害として入院歴がある13,428例が最終的に双極性障害群とされました。対象は性別と出生年をマッチさせた非双極性障害例で67,140例が選ばれました。

さて、結果ですが、まず背景情報です。以前言われていたように、双極性障害群で精神疾患の家族歴を持つ例が多くなっています。論文内では検定されていませんでしたが、χ二乗検定をして見ますと余裕で有意差が出ますね。その他、家族内での最高学歴や何番目の子供か、などの因子では大きな差は認められないようでした。で、いよいよ本題ですが、両親の年齢区分別に症例と対象を比較しています。もう片方の親の年齢で補正したり、精神疾患の家族歴で補正したり、さらには社会経済的要因も加味して補正したりといくつかのモデルを試しているのですが、すべてのモデルにおいて父親が29歳以上の場合、子供の双極性障害発症リスクが高いという結果が得られました。一方、母親の年齢との相関を見てみると、ところどころの年齢区分でリスクを上げるという結果が出ていますが、父親の場合のように高齢になるほどリスクが高くなるといった一定の傾向は認めていません。次に筆者らは、より遺伝的な影響が強いと思われる若年発症例に関して出世時の両親の年齢との相関を見ています。その結果やはり出世時の父親の年齢と子供の双極性障害罹患のリスクの間に高い相関を認めていました。具体的なリスクは、55歳以上の父親から生まれた子供の場合、20-24才の父親から生まれた子供の場合と比較して、1.37倍、双極性障害に罹患するリスクが高くなっていました。また、20才以下の若年発症症例に限ると、オッズ比は2.63にまで高くなっていました。

コメント

症例の選択には退院時診断を基にしていますので、入院が必要な程度の双極性障害クライエントをピックアップしていると考えればいいかと思います。罹患率が他の疫学調査で報告されている値よりも若干低いのは、このためだと思われます。で、もともとそんなに罹患率の高くない疾患なので、出世時の父親の年齢の影響があるといっても、絶対的なリスクとしてはそんなに高くは無く、現実的に挙児希望にあたって考慮すべき要因にはならないかと思いますが、そのメカニズムに想像を馳せると、双極性障害の病態解明にあたって重要なヒントを与えてくれそうです。筆者らは、卵子形成過程と精子形成過程を比較して、父親の年齢が高くなった場合に精子形成時の方が圧倒的に分裂回数が増えるために、遺伝子に突然変異が入りやすくなっている可能性、およびエピジェネティカルな変化の可能性を考察していました。

ヒトゲノムはおよそ3Gベースペアですが、ゲノムの突然変異を抑制する様々なメカニズムがあり、DNA複製時の精度はその10倍以上となっています。(正確にはこれは体細胞分裂時の話で、精子および卵子形成時は減数分裂になりますので、同じ事が言えるかどうかは自身がありません。)また、実際に遺伝子をコードしている領域は、それよりも遥かに狭い領域ですので、機能に影響を与えるような突然変異になる確率はさらに低くなります。ただし、実際にはゲノム上のどの領域も確率的に等しく突然変異がおこるわけではなく、どうやら突然変異が入りやすいところそうでないところがありそうですので、もしかしたら双極性障害感受性遺伝子のいくつかがこういった領域に乗っているのかもしれませんね。

双極性障害感受性遺伝子の検索については、実は全ゲノムスキャンの結果がいくつか報告されていますので、いつか機会がありましたらまとめてご紹介したいと思っています。

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急性躁病エピソードに対するプリン作動性薬剤(アロプリノール、ジピリダモール)の有効性について -4週間のランダム化コントロールリチウム併用試験-

今回ご紹介する論文は、急性躁病エピソードに対する新しい薬物療法の試みに関するものです。

A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled 4-Week Study on the Efficacy and Safety of the Purinergic Agents Allopurinol and Dipyridamole Adjunctive to Lithium in Acute Bipolar Mania.
J Clin Psychiatry. 2008 Jul 29:e1-e9.

まず、プリン(Wikipedia)と聞いてもピンと来ない方がほとんどだと思いますが、生体内ではDNAを構成しているアデニン塩基やグアニン塩基、エネルギー代謝で重要な役割を果たしているATP(アデノシン三リン酸)などがプリン化合物に含まれます。また、中枢神経系にはアデノシンの受容体も存在し、神経伝達物質としての役割も持っています。そして、これらプリン体の最終代謝産物が尿酸です。

近年、アデノシン受容体と統合失調症との関連が話題になっていますが、じつは広くプリン系の異常と双極性障害との関連性は古くから指摘されていたようです。なんと、クレペリン先生が躁状態と尿酸排泄の増加について最初に記載していたというのですから驚きです。その後も様々な報告が積み重ねられており、遺伝学的なデータからも、双極性障害の病態にプリン系の異常が関連している可能性が指摘されています。

で、中枢神経系のプリン系に作用する薬剤はあまりないのですが、アロプリノールとジピリダモールという2種類の薬剤が、現在臨床応用されており、中枢でのプリン代謝に影響を与える事が分かっています。アロプリノール(Wikipedia)は、キサンチン酸化酵素を阻害する事により、尿酸・活性酸素・過酸化水素の生成を抑制し、病的な状態に対して治療効果を発揮すると考えられています。一方、ジピリダモール(Wikipedia)は、核酸の細胞内取り込みを阻害する事により、内在性、外来性の細胞外核酸濃度を増加させます。

アロプリノールは、ザイロリックという製品名で痛風に用いられますが、治療抵抗性統合失調症に抗精神病薬の補助療法として付加されたり、ミトコンドリア病の一部に用いられたりすることがあるそうです。

ずいぶんと前置きが長くなってしまいましたが、という事で、この論文では、急性躁病に対してリチウムに加えて、アロプリノールもしくはジピリダモールを投与し、その有効性について検討されました。デザインはオーソドックスなプラセボ対照二重盲検試験です。

対象は、18-65歳の入院クライエントで、双極I型障害、現在躁病エピソードで精神病症状の有無は問われませんでした。YMRSで22点以上ということですから、だいたい想像できるかと思います。最終的に180症例がエントリーされ、アロプリノール群(600 mg/day)、ジピリダモール群(200 mg/day)、プラセボ群に1:1:1で割り付けられました。

主要評価項目はYMRSの改善度で、副評価項目にはCGI-Sが用いられました。

結果ですが、それぞれの群に60例づつ割り当てられ、脱落例がアロプリノール群で10例、ジピリダモール群で10例、プラセボ群で14例でした。残りの症例が実際の解析にまわされています。
で、アルプリノール群で、21日および28日時点でプラセボ群と比較して有意なYMRSの改善が認められました。また、アロプリノール群で、プラセボ群およびジピリダモール群と比較して有意に高い寛解率を認めました。また、アロプリノール群では、血清尿酸値の減少と抗躁病作用の間に、有意な正の相関関係を認めました。

実際の4週経過後のYMRSで見てみますと、アロプリノール群で6.3+/-1.5、ジピリダモール群で11.7+/-1.4、プラセボ群で12.8+/-1.6でした。

コメント

アロプリノールが統合失調症や双極性障害の躁病エピソードに有効である可能性がある事は、恥ずかしながら知りませんでした。実際今回ご紹介した論文が、二重盲検プラセボ対照試験としては、はじめてのもののようです。躁病エピソードに対するリチウムの有効性は確立されていますが、実際にはすべての症例で、リチウム単剤で対応可能なわけではなく、抗精神病薬が併用される事が多いと思われます。

現実的な対抗馬である第二世代抗精神病薬と比較した場合に、アロプリノールは、代謝系の副作用が無い点が利点としてあげられるでしょう。一方、鎮静効果がないために、効果が認められるまで、多少時間がかかる事が欠点かもしれません。

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