双極性障害における抗うつ薬と関連した慢性の易刺激性および不快気分を呈する病態:ACID(antidepressant-associated chronic irritable dysphoria) -その2-
さて、今回はACIDエントリーの2回目です。症例提示の続きを見てみましょう。
症例4
61歳既婚男性で、13年以上の双極I型障害病歴を持つ。最初の8年間はリチウム単独でよくコントロールされていた。その後、抑うつエピソードを経験した際に、抗うつ薬の投与が開始された。最初はセロトニン再取り込み阻害剤に反応しなかったが、後のドキセピンにて良い治療反応が得られた。しかし、リチウムとドキセピンによる治療が2年間継続した頃より、年に4回のラピッドサイクリングのペースで、ひどい抑うつエピソードを経験するようになり、それが2年間続いた。加えて、エピソードの挿間期は、持続的な不快気分とイライラ、エネルギー切れの状態であった。彼は休職願いを出し、牧師としての仕事を辞める事を計画し始めた。
ドキセピンを中止し、ゾルピデムとロラゼパムを屯用で不眠に対して使用し始めたところ、短期間のうつ病エピソードが5ヶ月間続いた後、頻度が少しずつ減少してきた。エピソード挿間期の気分は著明に改善を認めたが、軽度のイライラと不快気分は続いていた。また、時々不眠m認められた。ドキセピンを中止して16ヶ月間に渡り、2回のうつ病エピソードを経験していたが、いずれも短期間のブプロピオンの投与により改善を認めた。かれは再びフルタイムの仕事に戻り、以前よりも仕事ができるようになったと感じている。
症例5
34歳女性。19歳から双極I型障害と診断されている。過去6年間は、気分安定薬(リチウムもしくはディバルプロックス)と抗うつ薬(最近はセルトラリン)にて治療されていた。彼女の症状は、持続する抑うつ気分、イライラ、中途覚醒、やる気の欠如であった。彼女はゆっくりと友達から遠ざかっていき、仕事ができなくなり、学校に復帰する計画に失敗してしまった。経済状況も悪化していき、家を売り両親と暮らさなければ行けなくなった。
セルトラリンを中止し、リチウムの継続に時に不安に対してアルプラゾラムを投与するように変更した。すぐには症状の変化は現れなかったが、7ヶ月後にはエネルギーを感じる事ができるようになり、仕事に戻った。1年後の経過観察時には、彼女はフルタイムの仕事を得ており、両親の元をはなれ結婚していた。悲しみや不安は続いていたが、イライラと中途覚醒は良くなっていた。1回同病エピソードを経験したが、外来にてオランザピンの投与にてコントロール可能であった。
症例6
52歳既婚女性、12年間の双極I型障害の病歴がある。最近は、抑うつに対してブプロピオン、不安に対してクロナゼパム、双極性障害の維持療法としてディバルプロックスが投与されていた。
最初は抑うつ気分から回復したが、その後彼女は、持続する抑うつ気分、著明なイライラ、中途覚醒、不安を訴えるようになった。
抗うつ薬を中止したところ、4ヶ月目には軽度の改善が認められ、6ヶ月目には不快気分、不眠、イライラは完全に消失していた。不安が残っており、クロナゼパムの減量は困難であった。
以上で症例提示は終了です。おさらいをしておきますと、ACIDの3徴は、
- 不快気分 (dysphoria)
- イライラ (irritability)
- 中途覚醒 (middle insomnia)
です。抗うつ薬を長期継続している双極性障害クライエントに認められ、社旗的機能の障害が伴っているものを言います。抗うつ薬の中止により、数ヶ月の経過でこれらの症状が軽快していくとされています。
コメント
まず、ご注意いただきたいのは、この概念は、公式にはこの論文を執筆した筆者達しか言及していない概念であるという事です。広く世界中の精神科医に認知され合意が得られた概念ではないという事です。しかし、実際の臨床場面で、これと非常によく似た状況のクライエントを見る事もあり、私としては臨床的な示唆に富む概念だと思います。まあ、DMS-IVに無理矢理当てはめると、程度の軽い混合性エピソードと言えるような状況かもしれません。
これらが、抗うつ薬の中止により数ヶ月かけて改善するという事でしたが、実は調子の悪い人から薬を減らしていくという事は、ものすごく勇気のいる事で、知識として理解していても、なかなかできる事ではないんですよね。つらそうなクライエントを見ていると、早くなんとかしたいと思うし、クライエントからの期待をひしひしと感じたり、なんともできない自分に治療担当医としての自信を喪失したりで、そういうときに、「押す」(薬を増やす、かぶせる)か「引く」(薬を減らす)かというと、「押す」ほうが、能動的に何かをしている気になれる分、治療担当者としては楽になれるのは事実だと思います。
病棟をもっている精神科医療機関で働いていると、ときどきメンタルクリニックなどから薬物療法的にはgdgdになったクライエントの入院依頼なんかが来る事があって、まあそうなってしまう理由も分からないではないし、安全に「引く」ためには、安全装置としての入院環境が必要なことも理解できるので、ひたすら薬を減らして時を待つような苦しい治療をする事があり、なんだかここで提示されている症例に似ていると感じられました。
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