双極性障害における抗うつ薬と関連した慢性の易刺激性および不快気分を呈する病態:ACID(antidepressant-associated chronic irritable dysphoria) -その1-
今回のエントリーは、少し古い論文からです。ACIDとは、2005年に掲載されたこの論文で提唱された概念ですが、その後関連する論文は著者からしか出ていませんので、広くコンセンサスが得られた概念ではないという事をあらかじめ断っておきます。ただし、時にこの概念に当てはまるような症例を経験する事もあり、個人的に面白いと思いましたのでご紹介いたします。
まずは、ACIDの定義ですが、
- 双極性障害クライエントで、長期抗うつ薬治療を受けている
- 慢性の不快感、易刺激性(イライラ感)が存在する
- 抗うつ薬を中止しても、回復には時間がかかり、通常数ヶ月かけて改善する
様な病態の事です。
同様の減少はAkiskal先生達のグループからも1987年頃に報告されており、当時は三環系抗うつ薬に関連していると考えられていました。
以後、筆者らが経験した6症例が提示されていました。より具体的なイメージがつかみやすいかと思いますので、一つ一つご紹介いたします。
症例1
29歳既婚男性。6年前より双極性障害と診断されている。過去5年の間、リチウムとセロトニン再取り込み阻害剤(パロキセチン、セルトラリン、フロキセチン)を服用していた。抗うつ薬の継続、および治療戦略の見直しにも関わらず、抑うつ気分、不満、イライラ、無気力、中途覚醒などの症状が増悪し、仕事が困難になった。
抗うつ薬を中止した後、6ヶ月間は仕事に就く事ができず、ひどい夫婦喧嘩もした。抗うつ薬中止のみでは、直ちに症状の変化は認められなかったので、少量のクエチアピン(25-100mg)にて鎮静がはかられた。
抗うつ薬中止からおよそ4ヶ月後に、パートタイムではあったが、仕事を開始する事ができた。そして、抑うつ気分、イライラ感、集中力がずいぶん改善してきたと訴えた。
抗うつ薬中止からおよそ1年後には、大きな夫婦間の問題も無く、正規の仕事に就いていた。中途覚醒は改善していたが、早朝覚醒のみが症状として残っていた。
症例2
公認会計士の資格をもつ45歳、離婚経験のある男性。7年前に双極II型障害と診断を受けた。もともとセルトラリンの投与を受けていたが、4年後に軽躁エピソードを経験し、それ以来リチウムが追加された。
セルトラリン中止前は、彼は持続する不快気分、イライラ、欲求不満耐性の低下、不安定な気分、早朝覚醒、および中途覚醒からなる睡眠障害を自覚していた。これらの症状は、以前は一時的にセルトラリンの用量増加によって改善していたものであるが、ここ最近は1年以上この状態が続いていた。ついには、仕事を続ける事ができなくなり、自己破産してしまった。母親からの経済的な援助により、なんとか家を手放さずに暮らしていた。そして、ガールフレンドと幼い息子と離ればなれに暮らす事になった。
その後、セルトラリンを漸減し、リチウムに加えてラモトリジンを200mg/日まで追加していった。当初は、あまり大きな症状の変化は認められなかったが、セルトラリン中止1年後には、彼はフルタイムで働く事ができるようになっていた。経済的な状況も改善し、ガールフレンドともよりを戻した。QOLは著明に改善したにもかかわらず、彼は自分の人生に対する不満を訴え続け、気分およびeエネルギーの軽い変動は続いている。
症例3
48歳レズビアンの弁護士で、5年間の双極I型障害への罹患歴を持つ。発症以後、ディバルプロックス、パロキセチン、アミトリプチリンが投与されてきた。治療開始当初は、症状の改善を認めていたが、抑うつ気分の増悪、イライラ、中途覚醒、無気力、やる気が無いなどの症状で再発を来した。抗うつ薬のスイッチで、一時的な改善は認めたが、次第に仕事を続ける事ができなくなり、家を失い、パートナーと分かれてしまった。4年間にわたる抗うつ薬治療の後、ついには抗うつ薬(パロキセチン、ネファゾドン、トラゾドン)を中止する事となった。ディバルプロックスは継続され、クエチアピン(25-75mg/day)が一時的に追加された。彼女は4ヶ月後には症状が消失、再び弁護士事務所を解説し、パートナーとの関係を再構築した。
まだまだ、症例が続きますが、ながくなってきましたので、続きは次回へまわします。
| HOME |
