テキサス・コンセンサス会議報告:大うつ病性障害の薬物療法(6)
さて、ずいぶんとまが開いてしまいましたが、TMAP大うつ病性障害薬物療法アルゴリズムの続きを久々に更新したいと思います。前回で急性期治療の部分が終了していました。今回は、継続療法、維持療法についての記載です。
継続療法
急性期治療として薬物療法をうけたクライエント
まず、治療には反応したが寛解には至っていない場合には、個々のクライエントに応じて最大の効果が得られるように努力を行うべきであるが、このレベルでのエビデンスおよびコンセンサスは無いので、ガイドラインとしては特別に推奨できる方法を提示できないとしています。
薬物療法は、寛解後そのときの用量を6から9ヶ月続けるべきであり、治療継続中は少なくとも3ヶ月に1回、より好ましくは1-2ヶ月に1回の受診が勧められるとされています。
今回がはじめての大うつ病エピソードであった場合には、継続療法後に薬物の漸減中止を考慮しても良いが、過去に同様のエピソードがある場合には、維持療法への移行を考慮したほうが良いでしょう。
薬物を減量する場合には、急性期治療終了後少なくとも6-8週経過している事が好ましく、減量する割合は1週間に25%以上とならないように注意をするべきです。もしくは、薬剤の剤形に応じて減量するのも良いかもしれません。通常は減量中止に2-3ヶ月かかります。この間、クライエントは再発の徴候について十分な情報が提供されているべきです。
通常大うつ病性障害の再発エピソードは、薬物中止後8ヶ月以内におこってくる事が多いので、この間は2-4ヶ月後のに受診をすすめるべきです。もし、再発を来してしまった場合には、有効であった薬物療法を直ちに再開すべきです。
急性期治療にECTをうけたクライエント
抗うつ薬による持続療法が勧められます。薬剤の選択については、以前に有効性を認めた薬剤もしくは、これまでに服用した事の無い薬剤が勧められます。もし、あらゆる抗うつ薬に対して有効性が認められなかった場合には、必要であればリチウムとの組み合わせ投与が勧められます。
もし、薬物療法による継続療法中に再発を認めた場合には、再ECTも考慮すべきでしょう。
維持療法
最初の大うつ病エピソードを経験したクライエントの少なくとも50%が2回目のエピソードを経験し、3回のエピソードを経験したクライエントの実に90%は再発を来します。よって、3回のエピソードを経験したクライエントすべて、および2回のエピソードを経験したクライエントの一部は、維持療法を考慮した方が良いと思われます。
維持療法ででは、寛解に至った薬物療法を治療量服用する事が勧められます。適切な治療期間については、いまだ明らかではありませんが、持続療法後1ヶ月から以後生涯にわたっての服用が勧められます。
維持療法への導入とその継続期間については、治療担当医とクライエントでリスク要因やクライエントの性格傾向など十分なディヅカッションの元で決定すべきです。
維持療法が勧められる徴候とは、3回以上の大うつ病エピソード、および2回の大うつ病エピソードに以下の徴候のいずれかを伴う場合です。
- 双極性障害の家族歴
- 過去の治療終了から1年以内の再発
- 再発性大うつ病性障害の家族歴
- 最初のエピソードが20歳以下の若年発症
- 突然の重症うつ病エピソードが3年以内に認められた
今日のコメント
急性期の治療については、様々な場面で語られる事が多いのですが、いったん寛解した後の維持療法から薬物療法の中止の仕方については、あまり語られる事が少ないような気がします。個人的な経験では、いったん症状が寛解した後、就労年齢のクライエントであった場合には、復職というハードルが待ち受けています。で、ここどのように乗り切るかが大きな問題になるのですが、現実的にはこの作業が継続療法の時期になされます。ですので、復職を果たして生活のリズムを取り戻すまでが実際的に継続療法の期間になっているような気がします。薬物療法から見ると、受診はそこまで頻繁でなくても良いかもしれませんが、現状では復職に向けた詳細な打ち合わせが必要であったり、精神療法的なアプローチが必要であったりする事が多いので、やはり急性期に準じた密度の治療が必要な気がします。で、復職を果たしてしまうと、自然に受診から足が遠のいていつの間にか治療終了というパターンになってしまったいたようです。
大うつ病性障害では、明らかに再発リスクが高いクライエントがいますので、継続療法期間中に心理教育を含めて再発に関する情報の提供とリスク評価を行い、ハイリスク群への維持療法導入に目を向けた診療スタイルを心がけたほうがよいのでしょう。
一般住民サンプルからのうつ病の類型分類
2つ前のエントリーで、大うつ病製障害を神経伝達物質と関連づけて類型分類する話をご紹介しましたが、今回は一般住民を対象とした大規模調査から抽出されたサンプルを用いて、統計学的にどのような類型分類ができるかという話です。
対象は、National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC)から2001-2002年に行われた調査で得られた12,180サンプルです。イギリスの大学からの報告ですが、アメリカの調査のようです。
大うつ病性障害の評価は、the Alcohol Use Disorder and Associated Disanilities Interview Schedule-DSM-IV (AUDADIS-IV)を用いて、DSM-IVのA診断基準である9つの症状について行われました。その後、各症状項目の独立性を評価し、以下の7つの症状群が実際の解析にまわされています。
- 食欲および体重の変化
- 睡眠障害
- 精神運動障害
- 疲労感
- 無価値観・過剰な罪の意識
- 集中力の障害・判断力の障害
- 死および自殺に関する考え
具体的な解析にはLatent class analysis (LCA)が用いられました。訳すると潜在的なクラスを解析するという事になるのでしょうか?クラスター解析の一つの方法の様にも見えます。以下は想像ですが、どうやらいくつのサブグループ(class)から集団が構成されているのかをモデルとして、実際のデータにそれを当てはめてみて、その当てはまりの良さを赤池統計量(AIC: Akaike Information Criteria)やBIC(bayesian Information Criteria)などいくつかの指標を用いて計算、最終的にいくつのサブグループを想定したときが当てはまりが良いか、もしくはいくつのサブグループまでは統計的に区別できるかについて検討する方法のようです。
結果ですが、まず大うつ病性障害とスクリーニングを受けた集団とそれ以外の集団の背景情報に関しては、大うつ病性障害群で若干女性の割合が高く見える以外は、大差は内容に見えました。(統計学的処理はされていませんでしたので、あくまで私の感覚です。)
LCAの結果ですが、1から5までのクラスもでるを当てはめたところ、各統計量の減少程度が4-classから5-classに移るところで減少していました。これは、4-classモデルが採用されるという事を意味していようです。
つぎに、この4つのclassについて先の7つの症状がどのように分布しているかを確認し、その症状スペクトルから筆者らは以下のように命名しています。
- 重症うつ型(Severely depressed):すべての症状頻度が高い
- 身体症状型(Psychosomatic):1,2,4,6の症状頻度が高い
- 認知情動型(Cognitive-emotional):5,6,7の症状頻度が高い
- 非うつ病型(Non-depressed):すべての症状頻度が低い
さらに、これらの類型分類に対して背景情報をみて、その妥当性を検証しています。いくつか興味深いと思われたものだけピックアップしますと、
- 年収$70,000以上の人では、身体症状型以外の型のリスクが低い
- ヒスパニックでは身体症状型のリスクが低い
- 婚姻状況が離婚・別離の場合、身体症状型のリスクが高い
- 未婚では重症型のリスクが高い
- 家族歴や気分障害の既往では、いずれのタイプのリスクも高い
- アルコール依存上や乱用者では、認知情動型のリスクが高い
となっていました。興味がある方は原著にあたってみてください。
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さて、今回の論文は症状だけに注目して統計学的にいくつのサブグループにわかれるのかという論文でした。興味深いのは、2つ前のエントリーでご紹介した、神経伝達物質と絡めたうつ病の病型分類2軸モデルと非常によく似ている点ですね。おそらく身体症状型は不安を伴ううつ病に、認知情動型は興味・エネルギー消失を伴ううつ病に相当するのではないかと思われます。そして、重症型はいずれの神経伝達物質も障害された状況と考えられるのですが、私は重症うつ病はもう少し堅い生物学的な変化がおこってきている状況ではないかと思っています。根拠は全くありませんが、、、。
DSM-IVは、症状とその持続期間により診断をつけるということになっており、原理的にはだれが診断しても同じになる可能性が高いのですが、実はその診断基準の決定には、これまでに培われてきた疾患概念が見え隠れしており、その辺を理解しているのとしていないのでは、診断の精度が大きく変わってきます。ですが、この辺りの中途半端な疾患概念のせめぎ合いを捨ててしまって、純粋に症状を評価するための方法を洗練して症状評価の精度を上げていった上で、出てくる症状リスト、血液検査や遺伝的なデータ、背景情報さらには予後に関するデータ、すべてを含めた病型分類をこのような方法でやり直してみるのも面白いかもしれませんね。
タグ : 大うつ病性障害
Science誌のコラム :子供の双極性障害
BIPOLAR DISORDER:
Poles Apart
Science 11 July 2008: Vol. 321. no. 5886, pp. 193 - 195
DOI: 10.1126/science.321.5886.193
これまでは双極性障害は大人の病気だと考えられていましたが、ここ最近は児童思春期の双極性障害の報告が急増しています。ことの始まりは、1995年MGH の児童精神薬理学のグループが、これまでに多動症、行為障害と見られていた子供達が実は双極性障害と考えられると報告したことです。そして実際に、アメリカで児童思春期の双極性障害症例数は、20才以下の人口調査で1994年の40倍、入院患者数の調査では1996年の5倍というデータが出ているそうです。
通常こういった疾患頻度の急増の影には、疾患概念の変化に伴う診断基準の変化が絡んでいることが多いのですが、今回の場合もそれが当てはまるようです。もともと、大人の双極性障害でも、両極端な気分障害エピソードに様々な疾患の並存率が高く非常に複雑な病態を呈するのですが、それらが発達の過程にあり、常に変化を続けてる子供に起こってくると、さらに複雑な病態になることは推測できると思います。また、双極性障害そのものの症状も、必ずしも大人に見られる症状と類似しているとは限らないことも、子供での診断を困難にしている理由のひとつです。
で、実際にどこまでを双極性障害と診断するかで議論になっているのですが、より広く捉えるMGHのグループとそれよりも狭い範囲で捉えるNIMHのグループに分かれているようです。本文に提示されていた症例で説明しますと、
- 二コール13才、過去2-3週間の突然の行動の変化のため両親に連れられて受診。もともと物静かな子供だったが、突然、大声で叫んだり、誇大的となって、セクシーな服装をしたり、話し続けるようになり、ほとんど睡眠をとらなくなった。気分は変化しやすく、ヒステリックに笑ったり、癇癪を起こしやすくなった。
- リンダ11才は小学校に上がる前からか活動であり、精神刺激薬であるリタリンがある程度有効であった。しかし、後に症状は悪化し、乱暴になり、感情的、攻撃的になり、挑発的な服装や行動をするようになった。そして、インターネットからポルノをダウンロードしたりマリファナをすうなどの新しい習慣も身につけた。と同時に不安、抑うつが認められ、学校では落ちこぼれている。
MGHのグループは両症例とも双極性障害と考えるけれども、NIMHのグループは前者のみを双極性障害とし、後者のような症例を表現するために severe mood dysregulation (SMD)という疾患概念を提唱しているようです。このあたりの議論は決着が付いていないので、どちらが正しいとは現時点ではいえないのですが、鑑別するポイントとしては、第1度親族に双極性障害クライエントがいるかどうかが、ひとつの参考になるかもしれません。MGHグループの考え方に対する疑問は、現在であれば双極性障害と診断されるようなADHDもしくはアグレッシブな子供達の長期フォロー研究の結果からも定期されています。こういった子供達は、その後、双極性障害ではなく、薬物依存症や反社会的パーソナリティを呈するようになるようです。このあたりは、薬物療法を考えた場合問題になります。双極性障害クライエントをADHDとして神経刺激約を投与すると、躁病エピソードを誘発してしまう可能性も考えられるからです。
ここまでの話は、症状から診断を行うという話でしたが、近年functional MRIをはじめとした脳機能画像検査の発達に伴い、より客観的な鑑別を行おうという流れもあります。いずれも双極性障害で障害されている機能を仮定して、それらが影響を与えるであろう課題を与えたときの脳内の活動状況を、診断が異なるグループ間で比べるといった方法論になっているようです。じつは、このあたりが面白いところなのですが、また改めて機会があればご紹介したいと思います。
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確かに国際学会や論文を見ていますと、脳機能画像研究を小児の双極性障害、ADHDで比較した発表が近年非常に目に付きます。私は小児の双極性障害の経験が無かったので、このあたりの診断について一度質問したことがあるのですが、研究者が必ずしも臨床をしているわけではなく、明確な答えを得られなかったことを覚えていました。今回のコラムでそのあたりの疑問が解消されたように思います。じつは、こういった大きな変化があるときには、新薬の発売であるとかそういったマーケティングと絡んでいることが時々あり、陰謀論が好きな人は製薬会社が仕掛けたように表現することもあります。実際のところは私なんぞに分かるわけは無く、でもおそらくいろいろなタイミングが合ってお互いに利用しあっているのではないでしょうか?
精神科の医療関係者の中には、操作的診断基準が好きでない人たちがいらっしゃるのですが、医学的エビデンスを蓄積するためには、診断についての共通する言葉が必要なわけで、いまのところDSM-IVが使用されることが多くなっています。で、逆に目の前にいるクライエントにたいして、最新の医学的エビデンスのある治療法を検索しようとすると、現実的にはDSM-IVによる診断をきちんとつけていないと難しいことになります。で、EBMの考え方はここ最近盛んになってきましたので、操作的診断基準としてはDSM-III以降をフォローしておけば何とか対応できると思うのですが、もし将来的にここで語られているような疾患概念の大幅な変更があった場合に、過去のエビデンスをそのときの診断基準に変換するような新しいメタ解析の方法が必要になってくるかもしれません。その可能性は精神科領域では高いような気もします。
神経伝達物質とうつ病症状との関連
今回のエントリーはJ Clin Psychiatryの総説からです。筆者は英国Bristol大学のDr. David J Nuttで、彼の著書はアマゾンにも多数取り揃えられているようです。
さて、大うつ病性障害のモノアミン仮説というのをご存知でしょうか?モノアミンには、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンが含まれていますが、これらは脳内では神経伝達物質として利用されています。で、これらの神経伝達物質のバランスの異常がうつ病の症状を作り出しているのではないかとする仮説です。古典的な仮説ですが、いまなお有力視されているもので、実際に臨床に使用されている薬剤のほとんどは、これらの神経伝達物質に影響を与えるものになっています。
では、これらの3種類の神経伝達物質は、実際のうつ病のどういった症状と関連しているのでしょうか?逆に言うと、もし、うつ病の症状からどの伝達物質のバランスが主に障害されているかが予想できれば、より適切な薬物療法が選択できそうです。こういった考え方は古くからあり、実際に様々な研究がなされています。現実的には、話はそんなに単純ではないのですが、この総説では、その辺をばっさり切り落として、非常に分かりやすく解説がされていました。
結論は、Figure1に集約されています。

ひとつご注意いただきたいのは、これはあくまで筆者の考えであって、広く精神科医のコンセンサスから得られた結論ではないということです。しかし、大筋ではほとんどの部分で納得できるのではないでしょうか?
一方、うつ病症状の心理学的モデルに、「陰性感情」および「陽性感情の消失」の2軸モデルがあって、その2軸モデルに薬物療法を当てはめたのがFigure2の仮説モデルです。

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この辺りの話題は、大うつ病性障害の薬物療法を勉強し始めのころによく興味がもたれる分野です。いまでは、第一選択薬がほとんどSSRIになってしまっていて、あまりこういった古典的な概念を目にする機会も減ってきているのかもしれませんが、今後アメリカ並みに薬物療法の選択しが増えてくることが予想されますので、ご紹介してみました。
高度な不安を伴う大うつ病性障害(anxious depression)に対するブプロピオンとSSRIの有効性
ブプロピオンは、ドパミンおよびノルアドレナリンの再取り込み作用を有する薬剤です。日本では抗うつ薬として臨床試験が進行 中だったと思いますが、じつは禁煙補助薬としての作用も持っています。Anxious depressionは、DSM-IVではappendixに記載されている病態で、文字通り高度の不安症状をともなううつ病のことです。で、今回ご紹介 する論文では、このanxious depressionに対する有効性をブプロピオンとSSRIで比較しています。具体的には、1991年から2006年までにランダム化二重盲検で行われ た10の試験を組み合わせて解析しました(N=2122)。また、この研究でのanxious depressionの定義は、HAM-D17で、不安−身体化症状の項目が7点以上と定義されています。
結果です。
- anxious depressionは全部で1275症例
- 治療反応率は、ブプロピオンと比較してSSRIでより高かった。
HAM-D17 : ブプロピオン 59.4% vs SSRI 65.4% (p = .03)
HAM-A : ブプロピオン 54.5% vs SSRI 61.5% (p = .03) - HAM-D17総評価点の改善度もSSRIでより大きかった。 (-14.1±7.6 vs -13.2±7.9, p = .03)
- HAM-A総評価点の改善度もSSRIでより大きい傾向が認められた。 (-10.5±7.4 vs -9.6±7.6, p = .05)
- 軽度および中等度の不安を伴う大うつ病性障害に対する有効性は、SSRIおよびブプロピオン間で差を認めなかった。
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ブプロピオンは、その他の多くの抗うつ薬がセロトニンの再取り込みを阻害するのに対して、ドパミンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害するという、若干 異なった性質を持っています。そのため、副作用プロファイルが異なってきます。日本ではあまり大きく取り上げられることが少ないのですが、セロトニン再取 り込み阻害作用をもつ抗うつ薬では、性機能障害が比較的高頻度で認められます。で、ブプロピオンでは、その頻度が少ないといわれています。逆に、ブプロピ オンでは、副作用としての食欲不振の出現頻度が高いといわれています。GRID-HAMDについて
このブログでご紹介した論文でも、何度となく登場したハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)ですが、実際に内容をご覧になると分かると思うのですが、それぞれの評価点数をつけるのに、そのアンカーポイントが必ずしも明確でなかったり、身体症状に関連した評価項目が多いなど、問題点も指摘されています。また、HAM-Dに限った問題ではありませんが、質問者の質問の仕方やその内容によって得られる回答が異なってくることが考えられ、いわゆる評価者間で評価のが一致しない、の大きな理由の一つとなっています。
このような問題を最小限にするために、多くの評価尺度で構造化面接法が開発されています。どういう方法かと言いますと、どういった順番で、具体的にどういった表現で質問をするのかがある程度決められており、評点をつける際の具体的な基準が詳細に定義されていて、一連の質問によりそれらに必要な情報が得られるように工夫をされているのです。
HAM-Dに関しては、これまで2つの標準化された評価方法が開発されています。
- SIGH-D
- GRID-HAMD
です。
SIGH-Dに関しては、時々抗うつ薬の臨床試験で採用されていますので、治験担当医となられた方であれば、トレーニングを受けたかたもいるかもしれませんし、臨床試験に参加して実際に受けられた方もいるかもしれません。日本語版は星和書店から入手可能ですが、少々値が張ります。
一方、この論文で紹介されているGRID-HAMDは、どうやらSIGH-Dより後に開発されたもののようです。各評価項目ごとに、症状の重症度の評価とその持続時間の評価を切り離し、それらから矛盾無く評価点数をつける事ができるように、整理されているようです。また、構造化面接法を取り入れ、評価者の質問の仕方まで標準化されています。この論文では、おもに評価者間の信頼性に関してオリジナル版のHAM-DおよびSIGH-Dと比較し、GRID-HAMDがオリジナル版よりも優れており、SIGH-Dと同等である事を報告しています。GRID-HAMDの日本語版は、日本臨床精神神経薬理学会のサイトからPDFファイルをダウンロードできます。こちらは非営利目的であれば利用可能になっているようです。
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SIGH-Dは臨床試験で使用した事があるのですが、はじめて症状を評価する場合や十分な期間を置いて再試行する場合には、非常に丁寧に一つ一つの評価を行っていくので有用だと思うのですが、毎週もしくは隔週で行おうとすると、全く同じ質問を同じ順番で繰り返すわけですから、端から見ればまさにアホにしか見えないでしょう。
このようなオリジナルが外国語の評価尺度を日本語化するのは、大変な労力が必要です。まず、日本語訳をして、それをさらにオリジナルを知らない人が元の言語に翻訳し、それをオリジナルと比較して、日本語の表現が妥当であるかを確認します。さらに、日本語版を実際に使用してみて、信頼性や評価者間での一致度などが確保できているかを確認するのです。で、往々にしてこれらの日本語版のライセンスがはっきりしていないんですよね。できる事ならクリエイティブ・コモンズの表示-非営利-改変禁止もしくは、表示-非営利-継承なんかで公開していただければありがたいのですが、、、。
タグ : 大うつ病性障害 HAM-D ハミルトンうつ病評価尺度
SSRIおよびベンラファキシン投与と関連した上部消化管出血のリスク
今回のエントリーは、セロトニン再取り込み阻害作用をもつ薬剤(SRI:serotonine re-uptake inhibitor)と丈夫消化管出血のリスクについての調査結果です。SRI服用と脳出血のリスクに関しては、以前このブログでも取り上げていましたので、あわせてご覧ください。
SRIのターゲットであるセロトニントランスポータは血小板にも存在し、実際にSRIの投与により血小板内のセロトニンが減少する事が明らかとなっています。血小板のセロトニンは、血小板凝集の方向に作用する事が分かっていますので、SRI投与に伴う血小板内セロトニンの減少は、出血のリスクを上げる事が懸念されています。
この論文では、SSRIおよびベンラファキシンが上部消化管出血のリスクを上昇させるか否か、特にそのリスクを上げるような要因は何か、制酸剤がこのリスクの上昇を押さえる事ができるか否かについて検討されました。
対象は、丈夫消化管出血で受診した1321症例および、年齢・性別・受診年をマッチさせた10,000症例の対照群です。デザインとしては、ネスティッド症例ー対象試験という事になります。
結果です。
- 丈夫消化管出血症例で対照群と比較して、現在のSSRIおよびベンラファキシン使用者の割合は有意に高かった。
SSRI (5.3% vs 3.0%, adjusted odds ratio 1.6:1.2-2.1[95%CI])
ベンラファキシン (1.1% vs 0.3%, adjusted odds ratio 2.9:1.5-5.6[95%CI]) - NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)との相互作用(OR 4.8, 95% CI:2.8-8.3)が認められたが、それは制酸剤服用群(OR 1.3, 95% CI:0.5-3.3)と比較して非服用群(OR 9.1, 95% CI:4.8-17.3)で顕著であった。
- 血小板抑制剤との相互作用の存在も、制酸剤服用群(OR 0.8, 95% CI:0.3-2.5)と比較して制酸剤非服用群(OR 4.7, 95% CI:2.6-8.3)において示唆された。
結論です。
- SRI作用を有する抗うつ薬は丈夫消化管出血のリスクを高める。
- そのリスクの増加は、それらの薬剤がNSAIDsと関連している場合に顕著である。
- おそらく制酸剤の投与がこれらのリスクの上昇を制限する事が示唆される。
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論文内のグラフを見ていますと、抗うつ薬単独ではNSAIDs単独ほどは出血のリスクを上げないようです。血小板凝集抑制剤単独の場合とはほとんど差が認められないくらいですね。ちなみに、この研究で制酸剤とされているものは、プロトンポンプ阻害剤とH2阻害剤です。ちなみに、ほとんどの抗うつ薬はCYP2D6一部CYP3A4で代謝されますし、パロキセチンのようにCYP2D6阻害作用を持ったものもあります。一部のH2阻害薬やプロトンポンプ阻害薬の中には、同酵素で代謝されるものがあり、添付文書上併用注意になっているものがありますので注意してください。
添付文書上併用注意になっているのは、以下の組み合わせです。
- パロキセチン、セルトラリン : シメチジン
アメリカ人女性における妊娠・出産後の精神疾患の頻度について
今回のエントリーは、アメリカの疫学調査からの報告です。
アメリカ人女性で、過去1年間に妊娠もしくは出産をしたもののうち、DSM-IV第I軸診断、物質使用性障害および治療を希望(?treatment seeking)したものの頻度と、社会背景との関連を調べる事を目的としてこの研究は計画されました。
対象となったのは、National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditionsの2001-2002年のデータより、直接インタービューを行った43,093症例のうち、18-50歳で過去1年間の妊娠状況が明らかとなっている14,549症例です。
主要評価項目は、
- DSM-IV 第I軸診断の12ヶ月有病率
- 物質使用性障害の12ヶ月有病率
- 治療希望(treatment seeking)行動の12ヶ月間の頻度
です。
結果です
- 過去1年間に妊娠もしくは出産した女性は、妊娠していない女性と比較して、有意にアルコールおよび非合法薬物以外の薬物使用性障害の頻度が低かった。
- 現在妊娠中の女性では、妊娠していない女性と比較して、あらゆる気分障害の有病率が低かった。
- 出産後の女性で妊娠していない女性と比較して、大うつ病性障害の有病率が高かった。
- 年齢、婚姻状況、ストレスのかかるライフイベント、外傷体験の有無は、いずれも妊娠および出産後の女性の精神疾患罹患のリスク上昇と関連していた。
- 生涯、および過去1年間のあらゆる精神疾患に対する治療希望行動は、過去1年間で妊娠していた女性で、妊娠していない女性と比較して有意に少なかった。
- 現在精神疾患を持っているほとんどの女性は、その妊娠状況に関わらず、今回の調査前12ヶ月でメンタルヘルスサービスを受診していなかった。
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この論文の新しいところは、地域一般住民を対象とした疫学研究で、十分なサンプルサイズを持って、妊娠および出産後に精神疾患の有病率が変化するかどうかを見たところではないでしょうか。逆に言うと、一般住民が対象になっているので、もともと有病率が高い疾患しか十分な検出力が得られなかった可能性があります。例えば、精神病圏の疾患については、非妊娠群で0.3%、過去1年間に妊娠した群で0.4%、出産後群で0.5%程度でしたので、これらの違いを検出する事は難しいかと思われます。
治療担当医の立場から見た場合には、おそらくクライエントは何らかの疾患の治療中であるか再発予防のための維持療法中であると考えられますので、妊娠および授乳に伴う治療中断、とくに薬物療法中断時の再発が問題になってきますが、そういった判断の根拠とするには、このの研究は上記の意味で不適切だと思われます。
むしろ、公衆衛生的な観点から、例えば産後大うつ病性障害の有病率が高まるのであれば、産後の検診時にうつ病スクリーニングを行ってメンタルヘルスケアへの誘導を行うなどの方策を決定する根拠になりそうな気がします。
抗うつ薬と交通事故
今回のエントリーは、抗うつ薬服用と交通事故の関連についてです。
これまでに様々なデータから、抗うつ薬の服用は運転技能に影響を与える事が明らかとなっていますが、いわゆる地域調査でこれらの影響が認められるか否かについて結論が出ていませんでした。この報告では、2004年4月から2006年9月の間でノルウェーの3つの大きな地域調査圏からデータを集めました。18歳から65歳のサンプルで、総数は310万サンプルが解析されています。指標としたStandard incidence ratio (SIR)は、抗うつ薬服用中の交通事故件数を非服用中の交通事故件数で割った値としました。ここで、筆者らは抗うつ薬を2群に分けています。鎮静効果のある群には、三環系抗うつ薬、ミアンセリン、ミルタザピンが含まれ、鎮静効果の無い群に、新規抗うつ薬が含まれています。
結果ですが、20494件の交通事故のうち、鎮静効果のある抗うつ薬群を服用していた件数は204件、鎮静効果の無い抗うつ薬を服用していた件数は884件でした。それぞれのSIRは、1.4および1.6であり、わずかに交通事故を起こす可能性が高いという結果でした。また、これらの傾向は性別には関連していませんでしたが、若年者で鎮静効果のある抗うつ薬を服用していた場合に若干高くなっていました。
ただし、この研究では、交通事故件数の増加リスクは、抗うつ薬の薬理作用からきているのか、うつ病の症状からきているのか、これらの薬剤を処方されるクライエントの性格傾向からきているのかについては、結論できないとしています。
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最後の結論部分はかなり慎重ですね。まあ、抗うつ薬の薬理作用もしくはうつ病に伴う認知・判断力・反応が障害されているというところが妥当な解釈では無いでしょうか?治療担当医の立場としては、抗うつ薬服用中に運転してもいいなどとは口が裂けてもいえませんが、この程度のリスクの増加があるという事を理解した上で、判断してください。
担癌クライエントのうつ病治療:ランダム化試験(SMaRT oncology 1)
久しぶりの更新になります。今回のエントリーは、Lancetからです。
大うつ病性障害そのものも大きな社会的問題になりつつありますが、殊に身体的な慢性疾患に合併した際には、クライエントのQOLに対して大きな影響を与える事が分かっています。しかしながら、こういった病態にたいして適切な対応がなされていないのが現状です。そこで、筆者らは、担癌クライエントを対象に、大うつ病性障害をスクリーニングし、看護師による介入を行う事で、うつ病症状を軽減する事ができるかについて検討しました。
対象は、スコットランドの地域がんセンター(かな?)のクライエントで、がんの予後が6ヶ月以上あり、大うつ病性障害と診断された200症例です。平均年齢は56?6 (SD 11?9)歳で、 141症例(71%)が女性でした。これらの症例を、年齢・性別・診断・癌の進行度が2つの群でほぼ等しくなるようにランダムに割り付け、結果99症例が通常のケアを継続した群に、101症例が看護師による介入を行った群となりました。治療的介入は、癌専門看護師が行い3ヶ月間に7回のセッションがもたれました。通常は、地域のがんセンターで行われましたが、クライエントの病状に応じて時には電話で、もしくはクライエントの家庭で行われた事もあったようです。具体的な介入の内容ですが、コラボレイティブ・ケアに準じた内容だったようです。(この概念は、STEP-BDの治療戦略の大きな柱の一つでしたね。)大うつ病性障害やその治療法に対する知識の提供、絶望感を克服するための対処方法に関する目的志向型精神療法、さらに癌治療担当医師やプライマリケア医とのコミュニケーション方法に関する指導などです。抗うつ薬はプライマリケア医が投与したと記載されていましたので、この試験では併用されていたようです。
主要評価項目は、3ヶ月後の自己記入式SCL-20評価点の差としました。さらに、いずれもSCL-20で評価した治療反応および寛解、6ヶ月12ヶ月後のSCL-20の評価点も検討しました。
結果ですが、3ヶ月後のSCL-20評価点の差は、0.34 (95% CI 0.13?0.55)でした。そして、ここで認められた差は、6ヶ月12ヶ月時点でも維持されていました。その他の評価項目では、まず治療反応(SCL-20評価点が50%以上減少)に関しては、介入群で51症例(53%)であったのに対して、非介入群で34症例(34%)でした。寛解率については、SCL-20の評価点0.75以下と定義した場合は、介入群で29%であったのに対して非介入群で14%でした。SCIDで寛解を評価した場合には、介入群で68%であったのに対して非介入群で45%でした。一方、身体的機能や痛みの項目に関しては、2群間で差を認めませんでした。
次に費用に関する結果です。看護師および精神科医のスーパービジョンにかかったコストは、クライエント一人当たり$523でした。加えて、介入群で抗うつ薬やヘルスケアの費用が若干高くなっており、トータルのコストの差は6ヶ月間で$670、QALYsに換算して$10,559でした。ただし、上記には看護師の教育費用およびうつ病のスクリーニング費用は含まれていません。
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この研究で大うつ病性障害のスクリーニングは、HADSでスクリーニングした後、電話でSCIDをしていますから、かなり正確だと思われます。ただ、対象から2年以上の慢性大うつ病性障害症例や、重度の薬物依存症を併存する症例、自殺のリスクが高い症例、精神病症状をともなう症例などが除外されていますので、精神科医の立場から見ると、大うつ病性障害でも比較的軽症症例にあたると思われます。この事は、メンタルヘルスの専門家を受診した症例が全体の11%であった事からも分かります。最終的に抗うつ薬の費用など介入群で高くなっていることからすると、癌専門看護師から正しい知識を得て、大うつ病性障害をターゲットとしたきちんとした治療を受ける事ができたと解釈ができそうですね。日本では、精神科受診の敷居が下がって来たとはいっても、精神科受診をすすめる事すら侮辱されているととらえるクライエンがいらっしゃることも事実で、他科の先生方も併存する大うつ病性障害の治療導入に関しては苦労されているようです。
さて、この論文を読んで来て、具体的なマニュアルが公開されて無ければ、魅力半減だなと思いませんか?一応筆者に問い合わせれば入手可能なようです。
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