睡眠と気分、社会的機能、QOLの関連について -STEP-BD参加時のデータより-
久しぶりにSTEP-BDに関連した論文がJ Affective DisorderのArticle in Pressに掲載されています。しかも別々のグループから続けて2報です。今回のエントリーでは、睡眠と双極性障害の症状との関連を見たこちらの論文をご紹介します。
双極性障害クライエントでは、睡眠障害は症状の一つであるとともに、次の気分エピソードのリスク要因でもあります。また、ユーザイミックなクライエントの70%に睡眠障害が認められると言われており、いずれにしろ双極性障害には高頻度で合併している病態です。この論文では、STEP-BD参加者2024例を解析し、睡眠障害とそのときの気分状態、社会的機能、QOLとの関連について報告しています。
睡眠の評価は、STEP-BD参加前1週間の睡眠時間を平均し、平均総睡眠時間(TST:average total sleep time)および最大睡眠時間と最小睡眠時間から睡眠時間の変動が算出されました。そして、参加者をTSTで6時間未満のshort sleeper(SS)、6.5-8.5時間のnormal sleeper(NS)、9時間以上のlong sleeper(LS)に分類し、以下の項目について比較がなされました。
- 症状(MADRS, YMRS)
- 社会的機能(GAF, LIFT-RIFT)
- QOL(Q-LES-Q)
結果ですが、SS、NS、LS群に分類された参加者は、それぞれ32%、38%、23%でした。そして、SS群は、気分上昇、早期発症、長期の罹病期間と関連していました。また、SS群、LS群は、強い抑うつ症状、社会的機能の障害、QOLの障害と関連していました。
つまりSS群もLS群もいずれも抑うつ症状の強さ、社会的機能の障害、QOL障害と関連しており、SS群では特に気分上昇とも関連していると言えるかと思います。
コメント
まず、この論文は横断的な調査である事に注意をしてください。short sleeperとかlong sleeperとか言っていますが、あくまでSTEP-BDにエントリーした時点1週間前の平均値のことです。もともと個人個人が持っている、必要な睡眠時間が長いとか短いということをいっているのではありません。そういった意味では、睡眠不足、過多でより気分エピソードの頻度が高く、重症度も高いという事は、当然の結果だと思います。
気分エピソードではクライエントの認知機能が障害されるにもかかわらず、その症状は、とくに軽症の段階では、主観的にとらえられるものが多く、クライエント本人が認識するのに難しい事が多いようです。ところが、ここで取り上げられている睡眠障害は、少なくとも睡眠時間の変化については、認知の影響をあまり受けずに、ある程度客観的に数字として認識する事ができます。双極性障害治療の中長期的な目標の一つに、クライエント自身が自分の状態についてある程度把握できる様になる、という事がありますが、もしここで述べられているように睡眠時間の長短が、双極性障害の状態マーカーになリ得るのであれば、クライエントにとっても非常に分かりやすい指標の一つになるのではないかと思います。そして、自分にあった自分自身の評価方法を少しずつ身につけていく事で、余裕をもって双極性障害とつきあっていく事ができるようになれば良いですね。
職業別自殺のパターン:イングランドおよびウェールズ2001-2005
今回のエントリーは非常に興味深い内容ですが、残念ながら私の環境では全文が手に入りませんでしたのでアブストラクトからの紹介になります。興味をもたれた方は全文にあたってみてください。
自殺率は職業によって異なる事が分かっています。この論文は、英国イングランドおよびウェールズの2001-2005死亡統計から得たデータを解析しています。
上記統計より、20-64歳の成人の死因別死亡割合(PMR:proportional mortality rate)および標準化死亡比(SMR:standaradized mortality ratio)を職業別に算出しました。
男性では建設作業員、プラントおよび機械作業員で、最も多くの自殺者数を認めました。また、医療従事者(PMR=164)および農業従事者(PMR=133)で、もっとも高いPMRを認めました。女性では、管理職と秘書で最も多くの自殺者数を認め、PMRが高かったのは、医療従事者(PMR=232)およびスポーツ・フィットネス従事者(PMR=244)でした。
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PMRとは、このサイトによると「ある特定の死因による死亡数が全死亡数に占める割合である。」との事です。当然、各職業人口が異なりますから、職業別の自殺割合を較べるにはPMRが適当かと思います。男性・女性ともに医療従事者で自殺の割合が高いと言うのは正直ショックですね。まあ、昔から言われていた事ではありますが、、、。イギリスといえば、医療崩壊超先進国として有名ですが、その辺も影響しているのでしょうか?
タグ : 自殺
STEP-BD参加者におけるACID
前回、前々回とACIDについて古い論文をご紹介してきましたが、実は今回のエントリーの前置きの意味もありました。今回ご紹介する論文では、STEP-BD参加者を対象にACIDの頻度や抗うつ薬との関連について調べた論文です。
対象となったのは、STEP-BD最初の1500例(双極I型:62.7%、双極II型30.1%、特定不能:7.2%)です。研究参加時に少なくとも1ヶ月以上ユーサイミックで、その後うつ病エピソードを来して、少なくとも1年間以上経過を追う事ができた症例です。
上記を満たす症例のうち27症例が抗うつ薬投与を受けており、56症例が受けていませんでした。これら2群間でACIDの存在に特に注目して比較解析がなされました。
結果ですが、抗うつ薬投与群では非投与群と比較しておよそ10倍ACIDを来しやすい事が分かりました。(Hazard ratio=9.95, CI=1.103-89.717, P=0.04)
しかし、性別および過去の抗うつ薬に関連した躁病スイッチの既往で補正すると、hazard ratioは1.05まで低下しました。
結論としては、この研究からはACIDは独立した減少としては考えにくく、抗うつ薬に関連した気分スイッチの一形態と考える事ができるとしています。
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本文を見てみましたが、ACIDと診断されたクライエントは、抗うつ薬投与群で4症例、非投与群で1症例ということですから、このスタディだけでは何も言えないかと思います。また、もともと長期の抗うつ薬投与に伴うとのことで、症例報告では平均6年間以上となっていますので、観察期間の問題もあるでしょう。
今後大規模なスタディが行われる可能性も低いと思われますので、あまりメジャーな概念にはなりそうにありませんが、臨床的には、
- 抗うつ薬に関連した気分スイッチの既往があるクライエントには、抗うつ薬はなるべく投与しない。(特に長期間漫然と維持療法を行わない)
- ACIDと思われる病態を呈した場合、抗うつ薬の減量中止が有効である場合がある。
といったことが言えるかと思います。個人的には、大うつ病性障害と診断されているクライエントの隠されたバイポラリティとACID、およびsソフトバイポーラとの関連性が気になりますね。
- 双極性障害における抗うつ薬と関連した慢性の易刺激性および不快気分を呈する病態:ACID(antidepressant-associated chronic irritable dysphoria) -その1-
- 双極性障害における抗うつ薬と関連した慢性の易刺激性および不快気分を呈する病態:ACID(antidepressant-associated chronic irritable dysphoria) -その2-
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双極性障害における抗うつ薬と関連した慢性の易刺激性および不快気分を呈する病態:ACID(antidepressant-associated chronic irritable dysphoria) -その2-
さて、今回はACIDエントリーの2回目です。症例提示の続きを見てみましょう。
症例4
61歳既婚男性で、13年以上の双極I型障害病歴を持つ。最初の8年間はリチウム単独でよくコントロールされていた。その後、抑うつエピソードを経験した際に、抗うつ薬の投与が開始された。最初はセロトニン再取り込み阻害剤に反応しなかったが、後のドキセピンにて良い治療反応が得られた。しかし、リチウムとドキセピンによる治療が2年間継続した頃より、年に4回のラピッドサイクリングのペースで、ひどい抑うつエピソードを経験するようになり、それが2年間続いた。加えて、エピソードの挿間期は、持続的な不快気分とイライラ、エネルギー切れの状態であった。彼は休職願いを出し、牧師としての仕事を辞める事を計画し始めた。
ドキセピンを中止し、ゾルピデムとロラゼパムを屯用で不眠に対して使用し始めたところ、短期間のうつ病エピソードが5ヶ月間続いた後、頻度が少しずつ減少してきた。エピソード挿間期の気分は著明に改善を認めたが、軽度のイライラと不快気分は続いていた。また、時々不眠m認められた。ドキセピンを中止して16ヶ月間に渡り、2回のうつ病エピソードを経験していたが、いずれも短期間のブプロピオンの投与により改善を認めた。かれは再びフルタイムの仕事に戻り、以前よりも仕事ができるようになったと感じている。
症例5
34歳女性。19歳から双極I型障害と診断されている。過去6年間は、気分安定薬(リチウムもしくはディバルプロックス)と抗うつ薬(最近はセルトラリン)にて治療されていた。彼女の症状は、持続する抑うつ気分、イライラ、中途覚醒、やる気の欠如であった。彼女はゆっくりと友達から遠ざかっていき、仕事ができなくなり、学校に復帰する計画に失敗してしまった。経済状況も悪化していき、家を売り両親と暮らさなければ行けなくなった。
セルトラリンを中止し、リチウムの継続に時に不安に対してアルプラゾラムを投与するように変更した。すぐには症状の変化は現れなかったが、7ヶ月後にはエネルギーを感じる事ができるようになり、仕事に戻った。1年後の経過観察時には、彼女はフルタイムの仕事を得ており、両親の元をはなれ結婚していた。悲しみや不安は続いていたが、イライラと中途覚醒は良くなっていた。1回同病エピソードを経験したが、外来にてオランザピンの投与にてコントロール可能であった。
症例6
52歳既婚女性、12年間の双極I型障害の病歴がある。最近は、抑うつに対してブプロピオン、不安に対してクロナゼパム、双極性障害の維持療法としてディバルプロックスが投与されていた。
最初は抑うつ気分から回復したが、その後彼女は、持続する抑うつ気分、著明なイライラ、中途覚醒、不安を訴えるようになった。
抗うつ薬を中止したところ、4ヶ月目には軽度の改善が認められ、6ヶ月目には不快気分、不眠、イライラは完全に消失していた。不安が残っており、クロナゼパムの減量は困難であった。
以上で症例提示は終了です。おさらいをしておきますと、ACIDの3徴は、
- 不快気分 (dysphoria)
- イライラ (irritability)
- 中途覚醒 (middle insomnia)
です。抗うつ薬を長期継続している双極性障害クライエントに認められ、社旗的機能の障害が伴っているものを言います。抗うつ薬の中止により、数ヶ月の経過でこれらの症状が軽快していくとされています。
コメント
まず、ご注意いただきたいのは、この概念は、公式にはこの論文を執筆した筆者達しか言及していない概念であるという事です。広く世界中の精神科医に認知され合意が得られた概念ではないという事です。しかし、実際の臨床場面で、これと非常によく似た状況のクライエントを見る事もあり、私としては臨床的な示唆に富む概念だと思います。まあ、DMS-IVに無理矢理当てはめると、程度の軽い混合性エピソードと言えるような状況かもしれません。
これらが、抗うつ薬の中止により数ヶ月かけて改善するという事でしたが、実は調子の悪い人から薬を減らしていくという事は、ものすごく勇気のいる事で、知識として理解していても、なかなかできる事ではないんですよね。つらそうなクライエントを見ていると、早くなんとかしたいと思うし、クライエントからの期待をひしひしと感じたり、なんともできない自分に治療担当医としての自信を喪失したりで、そういうときに、「押す」(薬を増やす、かぶせる)か「引く」(薬を減らす)かというと、「押す」ほうが、能動的に何かをしている気になれる分、治療担当者としては楽になれるのは事実だと思います。
病棟をもっている精神科医療機関で働いていると、ときどきメンタルクリニックなどから薬物療法的にはgdgdになったクライエントの入院依頼なんかが来る事があって、まあそうなってしまう理由も分からないではないし、安全に「引く」ためには、安全装置としての入院環境が必要なことも理解できるので、ひたすら薬を減らして時を待つような苦しい治療をする事があり、なんだかここで提示されている症例に似ていると感じられました。
双極性障害における抗うつ薬と関連した慢性の易刺激性および不快気分を呈する病態:ACID(antidepressant-associated chronic irritable dysphoria) -その1-
今回のエントリーは、少し古い論文からです。ACIDとは、2005年に掲載されたこの論文で提唱された概念ですが、その後関連する論文は著者からしか出ていませんので、広くコンセンサスが得られた概念ではないという事をあらかじめ断っておきます。ただし、時にこの概念に当てはまるような症例を経験する事もあり、個人的に面白いと思いましたのでご紹介いたします。
まずは、ACIDの定義ですが、
- 双極性障害クライエントで、長期抗うつ薬治療を受けている
- 慢性の不快感、易刺激性(イライラ感)が存在する
- 抗うつ薬を中止しても、回復には時間がかかり、通常数ヶ月かけて改善する
様な病態の事です。
同様の減少はAkiskal先生達のグループからも1987年頃に報告されており、当時は三環系抗うつ薬に関連していると考えられていました。
以後、筆者らが経験した6症例が提示されていました。より具体的なイメージがつかみやすいかと思いますので、一つ一つご紹介いたします。
症例1
29歳既婚男性。6年前より双極性障害と診断されている。過去5年の間、リチウムとセロトニン再取り込み阻害剤(パロキセチン、セルトラリン、フロキセチン)を服用していた。抗うつ薬の継続、および治療戦略の見直しにも関わらず、抑うつ気分、不満、イライラ、無気力、中途覚醒などの症状が増悪し、仕事が困難になった。
抗うつ薬を中止した後、6ヶ月間は仕事に就く事ができず、ひどい夫婦喧嘩もした。抗うつ薬中止のみでは、直ちに症状の変化は認められなかったので、少量のクエチアピン(25-100mg)にて鎮静がはかられた。
抗うつ薬中止からおよそ4ヶ月後に、パートタイムではあったが、仕事を開始する事ができた。そして、抑うつ気分、イライラ感、集中力がずいぶん改善してきたと訴えた。
抗うつ薬中止からおよそ1年後には、大きな夫婦間の問題も無く、正規の仕事に就いていた。中途覚醒は改善していたが、早朝覚醒のみが症状として残っていた。
症例2
公認会計士の資格をもつ45歳、離婚経験のある男性。7年前に双極II型障害と診断を受けた。もともとセルトラリンの投与を受けていたが、4年後に軽躁エピソードを経験し、それ以来リチウムが追加された。
セルトラリン中止前は、彼は持続する不快気分、イライラ、欲求不満耐性の低下、不安定な気分、早朝覚醒、および中途覚醒からなる睡眠障害を自覚していた。これらの症状は、以前は一時的にセルトラリンの用量増加によって改善していたものであるが、ここ最近は1年以上この状態が続いていた。ついには、仕事を続ける事ができなくなり、自己破産してしまった。母親からの経済的な援助により、なんとか家を手放さずに暮らしていた。そして、ガールフレンドと幼い息子と離ればなれに暮らす事になった。
その後、セルトラリンを漸減し、リチウムに加えてラモトリジンを200mg/日まで追加していった。当初は、あまり大きな症状の変化は認められなかったが、セルトラリン中止1年後には、彼はフルタイムで働く事ができるようになっていた。経済的な状況も改善し、ガールフレンドともよりを戻した。QOLは著明に改善したにもかかわらず、彼は自分の人生に対する不満を訴え続け、気分およびeエネルギーの軽い変動は続いている。
症例3
48歳レズビアンの弁護士で、5年間の双極I型障害への罹患歴を持つ。発症以後、ディバルプロックス、パロキセチン、アミトリプチリンが投与されてきた。治療開始当初は、症状の改善を認めていたが、抑うつ気分の増悪、イライラ、中途覚醒、無気力、やる気が無いなどの症状で再発を来した。抗うつ薬のスイッチで、一時的な改善は認めたが、次第に仕事を続ける事ができなくなり、家を失い、パートナーと分かれてしまった。4年間にわたる抗うつ薬治療の後、ついには抗うつ薬(パロキセチン、ネファゾドン、トラゾドン)を中止する事となった。ディバルプロックスは継続され、クエチアピン(25-75mg/day)が一時的に追加された。彼女は4ヶ月後には症状が消失、再び弁護士事務所を解説し、パートナーとの関係を再構築した。
まだまだ、症例が続きますが、ながくなってきましたので、続きは次回へまわします。

